第10話

「お兄ちゃん!」

 彼が部屋に入ってくるなり、スクーヴァルは駆け寄った。

「どうしたの?」


「……光王に会ったと聞いた」

 深刻な顔で切り出すステアルラ。

「何があったんだ?」


「変な人だった。絡まれただけだから」

 心配しないでと言うが、兄にその様子はない。


「何か言っていたか?」

「う~ん、ナンパっぽいことは言われたけど……」


「分かった。これから十五神王が現れたら、真っ先に俺に言え」

「……う、うん」


 深刻な表情のまま、部屋を出るステアルラ。


 ――ちゃんと、心配してくれたんだ。

 心中で安堵の声を洩らすスクーヴァル。だが、彼女は気づいていない。


 「不審な人物」でなく、「十五神王」が現れたら。そう言われたことに。


 不審者と会った日でなく、光王と会ったと知れた日にやって来たということに。


 兄の思惑。それすら疑いもしていなかった。



◆◇◆◇◆

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