第6話

一週間後。彼女は、一人王宮の廊下を歩いていた。


 その視線は落ち、表情は憂鬱だ。ついさっき、兄の部屋を訪れ、ろくに相手にされなかったのである。忙しいと言われた。


 最近……何を考えてるんだろう……。


 はっきり言って、兄が相手にしてくれなければ、この王宮では一人だ。リガスも居るには居るが、宰相という立場上、滅多に会えるものでもない。また溜息をつく。だからであろうか。


「お嬢さん、どうしました?」

 そんな声に、振り向いてしまった。


 一見して、派手な男だった。スカーレットの逆立った髪、サルファー・イエローの右目、コバルトブルーの左目、丈も袖も裾も縫製も出鱈目な衣服。彼は、スクーヴァルに馴れ馴れしく近づき、その肩を抱くと、


「落ち込まれているようですね。貴女の様な方を悲しませるとは、どこの誰です? 私めでよろしければご相談に……」


「は、離して!」

 やっとのことでそう言い、男の手を振り解く。距離を取って、

「何なんですか? いきなり」

 警戒を顕に問う。


「セシトイオとお呼び下さい」

 礼などしながら言うが、今更紳士的には映るはずも無い。スクーヴァルは、じりじりと退がり、

「この王宮の人、ですか?」

「いえいえ、ただの部外者です。ちょっと他の用でお邪魔したら、哀しそうな貴女が見えたもので」

「じゃあ、その用事のところへ行って下さい」

「おお、冷たい。そんなにされると、ますます貴女に惹かれてしまう」

「…………」


 危機感を感じたか、彼女は駆け出した。そのまま、僅かな記憶を頼りに兵の詰所に向かう。彼女が兵士とともに戻ってきたときには、不審者――セシトイオはもう居なかった。



◆◇◆◇◆

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