第3話
辺境の小結界・ニーバッツ。そこに彼女はいた。
少し癖のある、ふわふわとした栗色の髪と、茶色の瞳。年のころは十九。まだ自己の確定もなっていない、見た目のままの年齢の少女である。
このヘグルマンタスでは、見かけの姿と実際の年齢は、基本的に一致しない。唯一例外があるとすれば、自己の確定のなっていない若い世代である。
ここの人間たちは、個人差もあるが、ある程度の年齢まで成長すると、そこから半不老不死になる。殺せば死ぬし、病や事故で死ぬこともあるが。
彼女は、世界でも珍しい『子供』だ。間もなく自己の確定が訪れるかもしれないが。
彼女がいる部屋は、不自然にまで片付けられていた。加えて、彼女の足元には大きめの鞄。この家を――いや、この結界を出るのだ。これからは、兄の友人の住む結界に住まうことになる。
兄の友人とは、何度も会ったことがあった。名前はリガス。短めの黒い髪とがっしりとした体格の好青年である。幼い頃から兄に連れられて遊び相手をしてもらったこともあったのだが……まさかそれが、大国ロスオイトの宰相だったとは気がつかなかった。幼い頃の記憶だが、不機嫌な時は髪を引っ張ったり殴ったり(まあ、子供の行為だから程度は知れているが)したこともあった。
今更、どんな顔で会えばいいのか。彼女の思考はそれでいっぱいだった。
いよいよ、その時が来る。部屋のドアをノックする音と、兄の声。
「スクーヴァル、準備はいいか?」
「あ、うん。……で、リガス……様は?」
「ロスオイトで待っている。どうしたんだ?」
恥ずかしさから――だろう。彼女は俯き、耳まで真っ赤にしている。
「だって、まさか宰相様だったなんて……。お兄ちゃん、どうして教えてくれなかったの?」
「教えただろう」
兄は、平然と言う。
「最初に会った時と、お前がリガスになついた時。あいつの髪を引っ張ったりしていた時にも」
「そんな小さな頃なんて……理解できるわけないじゃない」
「まあ、向こうも怒ってはいないから安心しろ。ほら、行くぞ」
言うと、兄は、彼女を含んで転移した。
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