第79話

亡骸は故郷に――それが、故人の遺志だった。

「リーゼ……」

 墓標の並ぶその隅に、彼が呪法で生み出した氷に亡骸を包み――彼はその場に立ち尽くしていた。

「安らかに……眠ってくれ……」

 溢れそうになる涙を必死にこらえ、呟く。


「また、会いに来る」

 この氷は、溶けることはない。彼の命が続く限りは。


「リサ、母さんとお別れだ」


 腕の中の娘に言うが、当然ながら、彼女にその意味は伝わらなかった。何年か後に、これが母親だと言い聞かせることになるのだろう。


 全ては終わった。だが、立ち去ることもできない。


 そんな彼の耳に――村の喧噪が入って来た。



◆◇◆◇◆



 ――以後、ドルティオークは、公の場から忽然と姿を消した。


 そのまま王国暦九五八年に彼が犯した全ての犯罪の時効が成立し、それ以後のドルティオークに関する記録は公式・非公式を問わず存在しない。


 ティーン・フレイマの娘、リサ・フレイマに関しても、唯一、セルドキア王国戦技院・呪法院で、母を超える短期間で特級の資格を取ったことが記録に残っているのみである。



◆◇◆◇◆

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