第74話

「……で、婚約してきちゃったわけ? ドルティオークと?」

「ああ」


 予言者カイナの屋敷で、カイナの部屋の前のテラスに並びながら、ティーンはガーネットと話していた。


 『禁忌』の脅威は去ったが、カイナの予知能力が日増しに増してきており、通常でも強力な護衛が欲しいというのがカイナの従兄弟・ザストゥの弁だった。そういうわけで、ここの護衛に戻ってきたのだが……カイナもザストゥも、ティーンが女であることに驚かなかった。どうやら、カイナが、ティーンが女でここに戻ってくることを予知していたらしい。


「あんなに嫌がってたのにねー」

「仕方あるまい。無抵抗の相手は流石に殺せない。

 それに、私さえいれば、奴は殺戮を行わない」


 因みに、ティーンの服装は、以前のようなローブ姿ではなく、赤いジャケットに白のパンツスタイルである。


「約束破るかもしれないわよ?」

「私の延命に必死になっている奴に、そんな暇があるとは思えない」


 と、二人の後ろの扉が開く。

 出て来たのは、カイナだった。二人ばかり侍女がついてくるが、それに構う様子はなく、


「ねぇ、ティーン」

 ティーンに声をかける。

「何だ?」

「結婚おめでとう」


「…………」

 唐突なその言葉に、暫しの沈黙が落ち、

「話を聞いていたのか?」

 カイナは首を横に振る。


「なら、これのせいか?」

 左手の婚約指輪を見せるが、また首を横に振る。


「……まさか……そこまで予知能力が上がったのか? 式は二カ月以上先だぞ」

 今度は頷くカイナ。


「カイナちゃんの能力、日増しに伸びてるわねー」

 まるっきり他人事の口調で、感心したように言うガーネット。


「式の様子も、少し分かるよ」

「…………」

 カイナの言葉に、ティーンは真面目な面持ちで沈黙し、


 ――これは、今まで以上に護衛に力を入れる必要があるな……。

 カイナの顔を見ながら、胸中で呟いた。

 ――ドルティオークではないが……異端者狩りを誘発しかねない能力だ。



◆◇◆◇◆

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