5、定められた結末

第73話

5、定められた結末




 ドルティオークの拠点に戻ってくるなり、ティーンは、部屋に置きっ放しになっていた終了証を回収した。


「行くのか? リーゼ」


「ああ」

 部屋に一緒に入って来ていたドルティオーク――ちなみに、魔眼の効果が消えた時点で腕は再生した――の問いに、平然と答える。

「もうお前に私は止められない」


「…………少し待て」

 言って部屋を出たドルティオークは、戻って来た時には一枚の紙を持っていた。

 婚姻届、と書いてある。


「………………

 何の真似だ?」


「こういうことだ」

 言い、ドルティオークは、懐から取り出した指輪をティーンの左手の薬指に嵌める。

 間髪入れずそれを外し、放り投げるティーン。


「リーゼ」

 ドルティオークは指輪を拾い、もう一度彼女の指に嵌めながら、

「頼む。持っていてくれ」


「…………

 ……分かった」

 暫し黙考した後、ティーンは、

「ただし、一つだけ条件がある。

 私の死後も、もう殺戮は行わないと誓え」


「……分かった。誓う」

 彼女の寿命が後何年もないことを聞いていたドルティオークは、沈痛な面持ちで頷いた。


「そうか。なら……」

 ティーンは、ドルティオークの手から婚姻届を取ると、サインをし、

「これでいいな」


 ドルティオークはサインを見ると、

「ティーンは偽名ではなかったのか?」

「ああ、改名した」

「リーゼに戻すつもりは……」

「ない」


 ドルティオークの言葉を遮って言うと、部屋の出口に向かって歩きだす。

「待て。リーゼ。

 お前が使った、肉体強化の呪法の詳しいデータを教えろ。解析する」


「……無駄だと思うがな……」

 言うと、ティーンはテーブルの所へ戻って来て、数十枚の紙にびっしりと文字を書く。

 そしてそのまま去って行こうとするティーンの背中に、ドルティオークは再び声をかける。


「式はお前の誕生日に行う。それまでに一度は戻って来い」

 返事は聞けぬまま、扉が開いて閉まる音だけを聞いた。



◆◇◆◇◆

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