第66話
「な…………」
イリアの言葉の後に落ちた沈黙の中、彼女はやっとのことで声を絞り出していた。
「……何を……」
「この五年間は、あなたを彼に委ねられるか判断するための期間だったのです。
委ねられる。それが私の結論です。
ドルティオークと結婚なさい」
「――……い…………!」
両手で自分自身を抱き締めるようにし、彼女は叫ぶように答えた。
「嫌です!! あんな男と……!」
「彼はあなたを愛していますよ。それを伝える術は、あまり持っていないようですが」
相も変わらずおっとりとした口調で言うイリア。しかしその口調には微塵の迷いもない。
「嫌です!」
ついに、涙がこぼれはじめた。涙が嗚咽へと変わるのに、大した時間は掛からなかった。
彼女の嗚咽だけが、祭祀殿に響く。
どれぐらい時間が経っただろうか。やがてもう一人、訪問者が現れた。
「イリア様、もうお話はお済みでしょう。娘を引き取って構いませんか?」
父の姿を見るなり、彼女はすがりついて泣き始める。そんな娘を抱き締めながら、彼はもう一度呼びかける。
「イリア様。お願いします」
「いいでしょう。ツーヴァ・フレイマ。伝えることは伝えました。
少々早いですが、五日後に成人の儀を行いましょう。それが済めば、リーゼ・フレイマには現実の世界に戻ってもらいます。
以上です」
巫女頭の無情な宣告を受けつつも、ツーヴァは娘を連れて去って行った。
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