第61話

ようやくすすり泣くほどにまで落ち着くと、彼女はあの半年間のことをぽつりぽつりとだが母に語った。


 全てを告げ終え、未だにすすり泣いている娘に、母――ネスは、


「……リーゼ。リーゼはその人のこと、好きかい?」

 慎重に様子を伺いながら、尋ねてみる。

 娘は首を横に振り、


「だって、あいつは一族の仇…………」

 やっとのことでそう呟く。

 そんな娘を抱き締める手を、ネスは強くし、


「誰もそんなこと思っちゃいないよ。だから、ね、リーゼがその人を好きかどうか、それだけ教えておくれ」


「……やだ……大嫌い……あんな男……」

「……そうかい。

 じゃあね、リーゼ、ずっとこの村から出なきゃいいよ」


 ネスの腕の中で、娘が顔を上げてくる。ネスは、そんな娘の頭を撫でながら、


「ここにはその人は入って来れないよ。

 だから、ね、ここでずっと一緒に暮らそ。

 もし元気になったら巫女にしてもらうといいよ。ね?」


 ネスの言葉に、娘は、再び母の胸に顔を埋め、小さくだが嗚咽しはじめた。


「よしよし。もう離さない。……離さないからね」

 ネスは、自分の腕の中の娘を、いつまでもきつく抱き締めていた。



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