第58話
「……妙だな」
廃村の中を歩きながら、ドルティオークは小さく呟いた。
「人間はおろか、動物や虫の反応もないとは……」
中に入ってみれば何ということもない、ただの廃村だった。あちこちに血の跡らしき染みが残っているが、骨などは転がっていない。
この廃村を作り上げた張本人でもある彼は、罪悪感のかけらも見せず、しげしげと辺りを観察しながら、記憶を頼りに道を歩く。
「何考えてんのよ、あんたは」
声の主と鉢合わせしたのは、角を曲がった直後だった。
前方には三人の女がいた。両端の二人は見知らぬ顔だが、二人共似たような服装をしている。五年前には見なかった服装だ。とすれば、これが『巫女』なのか……。
そして中央の一人。
「……プロトタイプ〇一三……」
何の気配も帯びずに立っている三人に驚いた風もなく、ドルティオークは、中央の女の名称の一部を口にする。
「あんたは入って来るなって言っておいた筈でしょ?」
「そのつもりだったが、こういう事態は聞いていなかったからな。
リーゼの気配が消えた。一体どこへ行ったんだ?」
問われたガーネットは、面倒臭そうな口調で、
「心配しなくてもこの村にいるわよ。あんたの生体探査じゃ反応を感知できないだけ」
「リーゼでは俺の生体探査にかからないほどに気配を消すことは出来ない筈だ」
「……ま、確かに、リーゼじゃ無理ね」
思わせ振りに言うと、ガーネットは踵を返して歩き始める。それに続く巫女二人。
背を向け、歩きながら話すガーネット。
「何があったかは後でリーゼに直接訊くのね。
……それから……すぐにここを出ること。
イリアも今回は大目に見るって言ってるから、まぁいいけど……今度忠告無視したら、とんでもない目に遭うわよ。
――いい?」
ガーネットは振り向き、金色に染まった瞳でドルティオークを睨みつける。
「これは警告よ」
場の空気が一気に冷え、辺りに荒涼とした風が吹いた。
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