第52話

呪法院の寮は、閑散としていた。五十名ほどを収容できる規模にも拘わらず、現在は数名しか収容していないためである。元々この収容定員は、戦時に、少々質が劣っても呪法士を大量に養成するために定められたものであるから、戦争などという言葉が縁の薄いものになっている現在では、この閑散とした雰囲気が然るべき状態なのだろう。


 暗い廊下を、明かりも灯さずに歩き、やがて光が洩れている扉の前で足を止める。


 軽くノックすると、やや間を置いて、

「ティーンかっ?」

 勢いよく扉が開く。この驚き方から見て、ノックの音を聞いてから生体探査の呪法を使い、こちらの気配を感じたようだ。


「解放されたのか?」

「まさか」

 一呼吸置いて落ち着いたウォルトの問いに、ティーンは首を横に振る。

「後で迎えに来るそうだ」


「今のうちに……逃げるのは無理か」

「おそらくな」

「まぁ、とにかく入れよ。昼間の話の続きもあるしな」



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