第51話

「どこへ向かうつもりだ?」

 飛行船の中。魔力介入による自動航行で行き先を設定してきたドルティオークに、ティーンは険しい声で問いかけた。

「着けば分かる」


 予想通り彼女は先程の服装のままで、出掛ける準備などかけらもしていなかった。装身具やハンドバッグ、カクテルバッグの類いは、充分に用意してあるのだが。


 ティーンはそれ以上の追求はせず、座席を立って窓際に行った。窓の外に呪法で明かりを生み出すが、瞬時に後方へ遠ざかり消えて行った。かなりのスピードで飛んでいるようである。


 ――沈黙が、その場に落ちる。

 元よりティーンは必要が無い限りドルティオークには話しかけないし、今日は何故かドルティオークの方も言葉を控えている。飛行船が出す音を無視すれば、その場は静かだった。

 だが――


「……どういうつもりだ?」

 二時間ほど経ってから、ティーンが沈黙を破る。


 飛行船の速度が落ち始めた頃である。つまりは、この近くに目的地があるということなのだが――ティーンの視線の先には、夜の闇に包まれた、セルドキア王国呪法院があった。彼女の予想通り、飛行船は呪法院の敷地に降りる。


「何を考えている?」

 沈黙を守るドルティオークに詰問すると、彼は呟くような声で、

「行って来い」

 それだけ答える。


「……何……?」

「後から迎えに行く」

 呆然としたティーンの声に、また呟くような声で応じると、彼は再び口を閉ざした。



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