第49話
「つまり……セイズの言ってた『お姫様』は、お前だったのか?」
「ああ」
意識の戻ったウォルトに、ティーンは自分の過去を説明した。こうして話すことにいちいち反応を見せるところを見ると、ガーネットの言う通り、ブラック・オニキスとしての自我はないのだろう。
「……でもなぁ……お前、十七だろ?」
先程ガーネットに刺されたことも覚えていないらしいウォルトは、少し首を傾げながら言葉を続ける。
「あいつ一体、年いくつだ?」
「訊いていないから知らないが……三十代後半なのは間違いないだろう」
「二十も離れてるじゃねぇか……。ロリコンか? あの男」
「そんなことはどうでもいい。私にとって重要なのは、あの男が一族の仇だということ、それだけだ」
一瞬だけ、瞳を金色に染めてティーンが言った言葉に、ウォルトは神妙な顔つきになった。
「……なぁ、ティーン。
一緒にここから出ねぇか? ガーネットが妙な力使うみてぇだし、それを利用すれば……」
「駄目だ」
ウォルトの言葉を遮って言い、ティーンは続ける。
「お前たちが殺される。
奴がおとなしいのは、私がここに居るからだ。私の逃走に手を貸そうとしたと知れば、奴はためらいもなくお前を殺すだろう。
幸い、命の危険はない。私は、自力でここから出る道を探すことにする」
「でもなぁ、命が無事だからって言って、何もされないとは限らねぇだろ」
「貞操のことか?」
あっさりと言った言葉に、ウォルトが間を置いて頷く。
「それなら心配する必要はない。……と言うより、手遅れだ。私は、十三の頃にとっくに身体を奪われている。
奴は、私の目の前で家族を殺し、私を連れ去り――その日の内に、私を侵した。半年ほど奴に連れ回されたが……その間に何度も身体を奪われた。
今は手を出してくる様子はないが……今更どうということもない」
ティーンが言い終わる頃には、ウォルトの顔は、義憤に赤く染まっていた。黙って立ち上がり、部屋の扉に向かおうとする。
「止せ!」
「黙ってろ! オレがぶっ殺してきてやる!」
「無理だ! それに……」
声のトーンを一つ落とし、
「私のことで奴に関わるな」
「……?」
ウォルトが足を止めた隙に、ティーンは言葉を続ける。
「奴は私に、異様なまでの執着を見せている」
と、ティーンは後ろを向き、背中のファスナーを下ろし始める。
「お、おい、何を……」
「見ろ」
慌てるウォルトとは対照的に、冷静にティーンは右肩を外に晒す。彼女の右の肩甲骨の辺りに、焼き印があった。
ドルティオーク。そのスペル。
ファスナーを閉じ、ウォルトの方を振り返る。
「これで分かっただろう。奴の執着ぶりが。
私に構うな。これは私の問題だ」
「んなこと言われて……」
ウォルトがなおも言おうとした時、また扉を開かずにガーネットが戻って来た。
「ウォルト。帰るわよ」
言い、スペサルタイトに乗り、有無を言わさずウォルトの腕を掴む。
「ちょっと待て! まだ話が……」
「じゃ、元気でね。ティーン」
必死にガーネットの手を振りほどこうとしているウォルトを下げて、ガーネットは去って行った。
一人残ったティーンは、無言のまま、その場に頽れた。
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