第48話

「まず最初に言っとくけど……イリアは生きてるわ。他の巫女たちもね」

 ティーンと向かい合ってソファに座り、口を開くガーネット。


「イリアはあたしたちの生みの親よ。正確に言えば、創造主ってとこかしら。

 イリアは、自らの手足として、あたしたちセミ-プレシャスやプレシャスを創造したの。あたしは、その中でも一番の古株。最初の成功例。それでも、プロトタイプだけどね。次の成功例が、スペサルタイト。あたしのサポートを主な目的として創造されたわ。


 あたしの正式名称は、セミ-プレシャス プロトタイプ 〇一三 コードネーム《ガーネット》。スペサルタイトは、セミ-プレシャス プロトタイプ 〇三八 コードネーム《スペサルタイト・ガーネット》」


「〇一三に〇三八……?」

 それまで黙って聞いていたティーンは、ぽつりとそう呟き、


「お前たちか? カイアスズリアの解毒剤を調達したのは」

「ま、そーゆーこと。

 カイナちゃんのところで、あなたがカイアスズリアを仕込んだ指輪つけてるのを見てね……慌てて解毒剤準備したの。

 あたしとスペサルタイトは、あなたを監視・誘導する目的で派遣されて来たわ。勝手に死なれちゃ困るのよ。


 ま、それはそれとして……ウォルトも人間じゃないわ。さっきので分かったと思うけど。正式名称セミ-プレシャス 二四一 コードネーム《ブラック・オニキス》。あたしたちと違って、完成形のセミ-プレシャス……の筈だったんだけど……ねぇ」


 ちらりと、眠っているウォルトを見やり、嘆息する。


「どこかのシステムにでも異常があったんでしょうね。独断で自分の存在の核と言える部分を抽出・具現化してたのよ。さっき戻しといたから、何十年かすれば正常に戻ると思うけど」


「あの短剣か?」

「そういうこと。

 とにかく、ブラック・オニキスは今まで……まぁ、これから暫くもだけど……中途半端な状態で稼働してたわ。友人としてあなたに接触し、行動を定期的にイリアに報告する――その目的で本物のウォルトと入れ替わって……結果から言えば、ブラック・オニキスとしての自我を失っちゃったのよ。完全に『ウォルト』になっちゃったわけ。……もっとも、あなたの行動をイリアに報告するっていう任務の方は、無意識にこなしてたみたいだけど。

 ……何か訊きたいこと、ある?」


「本物のウォルトと入れ替わったと言うが……なら、本物はどこで何をしているんだ?」


「死んだわよ。

 彼が、王立アカデミーに入る直前、重い病気で入院したのは知ってるでしょ? その時に、本物は病死したわ」


「なら、ウォルトは、私と出会った時は既にブラック・オニキスだったというわけか」

「そーゆーこと。本物はイリアが供養してるわ。ブラック・オニキスが成り済ましてるせいで、親も供養してないから。

 ……どうしたの?」

 ガーネットが、俯いたティーンの顔を覗き込む。


「……私は……いつから巫女頭の監視下にあったんだ?」


「最初っからよ」

 絞り出すようなティーンの声に、ガーネットは、事もなげに答える。


「セミ-プレシャスが派遣されたのはブラック・オニキスの時からだけど……イリアは、千里眼も持ってるから。ついでに予知能力もね。


 ……ところで……訊かないのね」


「何をだ?」

「イリアの居場所」

 一瞬、場の空気が重くなる。


「……お会いするつもりはない」

 呟くように、ティーンは答えた。

「理由は……ずっと監視していたのなら知っている筈だ」


「あたしとスペサルタイトは、あなたをイリアの所へ連れてくように言われてるんだけど」

 ガーネットが不満げに言った言葉に、ウォルトのうめき声が重なる。――どうやら、意識が戻ったらしい。


「ま、今はそれはいいわ。

 あたしたちは、ドルティオークに話があるから」

 言って、席を立つガーネット。鳥の姿をしたスペサルタイトがその側に来る。


「それから、ウォルトにはブラック・オニキスの自我は全く無いわよ。今まで通りに接してね」

 小声でそう言うと、扉を素通りして出て行った。



◆◇◆◇◆

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