第39話
「着いたぞ。リーゼ」
「ティーンだ!」
飛行船が着陸するなりドルティオークが言った言葉に、ティーンが鋭い声で訂正を入れる。個人用の小型飛行船で、内部は操縦システムがその面積の四分の一ほどを占め、残りの空間に座席やテーブルが備えられているといった造りになっている。魔力制御に拠るところが大きなもので、こういったものを入手するには、金だけでは足りないのだが。
到着した場所は、岩ばかりが鋭く突き立った山脈の一部である。その一部を削り取り、飛行船を置けるスペースを作っているようだ。到着した場所には、他にも大小三つの飛行船が置かれていた。
「ここは一応屋上でな。居住空間はこの下だ」
言いながら、ティーンの真横に座っていたドルティオークは立ち上がり、彼女を抱きかかえようと手を伸ばす。
「触るな! 一人で歩ける!」
「……無理だと思うがな」
ドルティオークは、言い、座席から立とうとしているティーンの姿を観察する。
淡い緑のドレス姿で、長い髪には丁寧に櫛が入れられている。ドルティオークは、髪飾りもつけたのだが……それは彼女が外してしまった。
とにかく彼女は、座席の背もたれを支えに、どうにか立ち上がっていた。そのまま一歩前へ進もうとし――そこで態勢を崩す。
「だから無理だと言っただろう」
倒れそうになったティーンの身体を支え、ドルティオークは言った。
「本来なら、あと三日は病院のベッドの上だ。まだ身体の自由は利かん。おとなしくしていろ」
言いながら、彼女の身体を抱きかかえ、飛行船から降りる。彼女の敵意のこもった視線が刺さるが、そんなことは気にも留めない。屋上の隅の扉を開くと、階段を下りる。
「早速にでも中を案内してやりたいんだが……それはお前が歩けるようになってからにしよう」
ドルティオークが言う間に、階下へと着いた。どうやら、屋上とこの階しかないらしい。
居住区は、呪法で岩山の内部を削り出して作られたものらしい。壁、床、天井共に、滑らかに削り取られた岩肌が見える。廊下を照らす明かりは、おそらく呪法で生み出された光だろう。ふわふわと、天井近くを漂っている。廊下の両側には灰色の扉が並び、その先は行き止まりになっている。
と、階段に割と近い扉が開き、中から一人の男が現れる。
中肉中背、派手なローブ、左耳の大きなピアス。『禁忌』の部下の一人、セイズである。
「いらっしゃいませ。お姫様」
ドルティオークの腕の中のティーンに向かって、話しかけてくる。彼女の服装を見て、
「ああ、そういう格好の方が似合ってるよ。厚ぼったいローブ姿よりはさ。
可愛いよ。年頃なんだし、お洒落の一つもしておかないとね」
「……黙れ!」
苛立ったティーンの声を物ともせず、セイズは続ける。
「早くここに慣れるといいよ。何しろ、ここが今日から君の家になるんだしね。
ここに住むのは、君と隊長だけ。僕は時々用があってここに来るけど……他の人は一切来ないよ。ごゆっくり、ね。
あ、隊長。本は指示通りに整理しておきました」
「ご苦労だった。用があったらまた呼ぶ」
「では、失礼します」
「……待て」
言って、先程二人が降りてきた階段に向かうセイズに、ティーンが声をかけた。
「何か用? お姫様」
「ティーンだ。
それより、お前は、この男にとって個人的かつ重要な任務を任されているようだが……何故だ? 力がそれほどあるわけでも、頭が異常に切れるわけでもあるまい」
「はっきり言うねぇ」
ティーンの言葉に、セイズは肩をすくめた後、
「よく言うだろ。長い物には巻かれろって。
僕は余計なことはしない。指示を受けたら突っ込んだことは聞かないし言わない。指示された通りの事しかしないんだ。それ以上のことも、それ以下の事もね。
便利なんだよ。要するに」
それだけ言うと、セイズは階段を昇って去った。
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