2、カイアスズリア

第18話

2、カイアスズリア




「トースヴァイ教会からの推薦状は確かに受け取った」

 机ごしにティーンの前に座る男は、難しい顔をしてそう言った。


 トースヴァイで情報を得た、予言者の屋敷である。司祭エヴァーヌは、予言者に関する情報を提供するどころか、ここへの推薦状も用意してくれたのだ。お陰で、面倒な手続きは抜きで、予言者の護衛団のリーダーに会うことができた。どうやら、教会側としては、『禁忌』に敵対する者への援助は拒まないという姿勢らしい。


 実を言うと、国そのものがそういう姿勢なのだが、それをティーンは知らない。


「推薦状には、この国の特級戦技士と特級呪法士、それにコロネドの特級呪法士と書いてあるが……本当なんだろうな?」

 護衛団のリーダー、ザストゥ・カズラール――年齢は二十代半ばぐらいか。件の予言者の従兄弟に当たるらしい――は、疑わしげな目をティーンに向ける。


「疑うなら調べればいい」

 言い、ティーンは三つの終了証をザストゥに渡す。

 彼は、それを改めてから、推薦状に手を伸ばした。最初の頁を見て、


「……十七歳!?」

 妙な所で声を上げ、ティーンを横目でじろりと睨む。


「何か問題でもあるのか?」

 平然と尋ねるティーンに、彼は、


「カイナと一つしか違わねぇじゃねぇか。おまけに……」

 突然椅子から立ち上がり、ティーンの顎に手をかける。

「こんな女みてぇな面の優男ときてる」


「もう一度訊くが……何か問題でもあるのか?」


「おう! あるとも!」

 飽くまで冷静なティーンの声に、ザストゥは声を荒げて怒鳴ると、ティーンに詰め寄り、


「いいか? 絶対に、カイナに寄るな触るな手を出すな。コナかけようとかしやがったら、ぶっ殺すからな!」


 ……どうやら、ただの従兄弟バカのようである。因に、カイナとは、件の予言者の名前だ。


「生憎だが、そういうことには興味はない。それより話を続けてくれ」

 多少呆れ気味に言うティーンに、ザストゥは、未だ疑わしげな目を向け、


「そう言う奴が一番怪しいんだ。

 ……まあいい。確かに話の途中だったな。

 ………………

 戦技院を三カ月で終了だぁ!?」


 明らかに人間を見る目ではない視線をティーンに送ってから、残りの頁を乱暴にめくり、

「呪法院二カ月……コロラドは三週間だぁ!?

 ……本当に人間か?」


「そのつもりだが」

 もはや慣れた返答を返すティーンに、ザストゥは思い出したような口調で、


「ところで、推薦状に空白がやけに多いが……これは何だ?」

「私の出生に関わることだ。プライバシーと考えて欲しい」


「そうか……分かった。

 ついて来い。お前の実力を見たい。肩書だけでは信用できんからな」


 ザストゥは、ブローチをティーンに返すと、ゆっくりとした動作で部屋を出た。



◆◇◆◇◆

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