第15話

トースヴァイ――セルドキア王国のリュシア教の聖地である。本来の聖地は他国にあるのだが、リュシア教はこの国にも深く根を下ろしており、いわば聖地の支部という形でこの聖都市が築かれた。


 そのトースヴァイの中心部、この王国最大のリュシア教神殿に、ティーンは居た。何のことはない、ただの待合室である。ここへ来るなり、受付に三つの終了証を呈示し、リュシアの禁忌について話を聞きたいと告げてから――ここで一時間ほど待たされている。……無理もないことだ。事前に何の通達もなく突然訪れたのであるし、『禁忌』に触れられて喜ぶ筈はない。


 部屋にいるのは彼一人である。悪い部屋ではないらしい。手入れが行き届いているらしく、床に敷かれた絨毯には埃一つ見当たらない。壁には古びた大時計と、聖書の一部を描いたのであろう宗教画が飾られていた。座っているソファにもほどよい弾力性があり、目の前のテーブルも割と高級なもののようだ。


 もう三十分ほどが過ぎ――


「大変お待たせ致しました」

 老いた司祭が、従者らしき若い神官二名を連れて、この待合室の扉を開けた。

「司祭のエヴァーヌと申します」


「セルドキア王国特級戦技士・呪法士、コロネド王国特級呪法士、ティーン・フレイマです」

 ティーンが立ち上がって挨拶を返すと、老司祭――エヴァーヌは二人の神官に目配せをする。神官たちは、一礼すると去って行った。


 若い二人が立ち去って行くのを確認すると、エヴァーヌは、待合室の扉を閉め、

「そのままお掛け下さい」

 言い、自分もテーブルを挟んで向かい側に座った。


「『禁忌』に関する情報をお求めと伺いましたが」

「はい。突然で申し訳ありませんが」


「失礼ですが……何故、『禁忌』に興味をお持ちなのか……お聞かせ願えませんか?」

 エヴァーヌの言葉に、ティーンは一呼吸の間を置いて、


「私は、四年半前、奴に滅ぼされたレクタ族の生き残りです」

 それだけ、言う。


「特級戦技士に、特級呪法士でしたね……」

 エヴァーヌは、確認するように呟くと、席を立った。

「こちらにお越し下さい。詳しい話をお聞かせしましょう」



◆◇◆◇◆

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