第13話
結局、ティーンは二カ月で呪法院の全過程を終了した。
「卒業おめでとう。はい、これが呪法院の終了証よ」
「お世話になりました」
ハウライドにセルドキアの紋章の入った、紫のブローチを手渡され、ティーンは頭を下げた。もっとも、彼にはハウライドが今まで見てきた生徒のような、喜びに溢れかえる様子は微塵もないが。
戦技院に入る前にティーンが呼び出された、ハウライドの執務室である。相変わらず、机の上には季節の花が飾ってある。
「それと……」
ハウライドは机の引き出しを開き、一枚の封筒を取り出す。
「頼まれてた、コロネド王国呪法院への推薦状よ。向こうも特級特待で迎えてくれるそうよ」
「ありがとうございます」
コロネド王国の呪法院は世界でもトップクラスと評判が高い。因に、戦技院でトップクラスと言われているのは、実はティーンが三カ月で終了した、このセルドキアの戦技院だったりするのだが。
「あ、待って、ティーン」
挨拶を終えて退出しようとするティーンをハウライドは呼び止めて、
「……元気でね」
それだけ言った。
「……はい。院長も、お元気で」
部屋の扉が閉まる。
一人残ったハウライドは、何げなく花瓶の花を眺めながら、呟いた。
「寂しくなるわね……」
ガーネットがここを去ったのは、五日前のことである。何でも、急用ができたと言っていたが……コードネームを使っていた程である。ここに来ていたのも、誰かの命令だったのだろう。
セイズも、去った。彼の場合は、きっぱりと、命令が下りてここにいられなくなったと言っていたが。
そして今日。ティーン・フレイマが去った。ハウライドは、久々に自ら指導に当たったこの生徒を、それ以上のものに考えかけていたのだが。ただの生徒ではなく――そう、まるで孫のように。
ハウライドは、机の上にあったティーン・フレイマに関するファイルを一通り眺め――引き出しの一番奥にしまい込んだ。
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