第12話

結局、ティーンの指導には、ハウライド自らが当たることで話はついた。


 その日の夕刻。ティーンは、大きな荷物を抱えて呪法院の寮の廊下を歩いていた。渡された鍵の部屋番号からすれば、この辺りの筈なのだが……。


 廊下の片側には窓が、もう片方の側には扉が並んでいた。どの階も同じ造りらしい。窓からは、夕刻の茜色の光が差し込んでいた。


 と、前方に人影が見える。中肉中背、派手なローブ、左耳の大きなピアス、顔全体が笑ったような造り。昼間、顔を合わせた呪法院のメンバーである。腕を組み、窓に背を預けている。


「ここだよ。君の部屋」

 ティーンが近づくと、彼は、目の前の扉を指さして言った。

「そうか。ありがとう」


 言い、扉に鍵を差し込むティーンに、彼は後ろから話しかける。

「自己紹介がまだだったね。僕はセイズって言うんだ。よろしく」


「セイズだな。私のことは、ティーンと呼んでくれ」

 肩越しに言ったティーンに、セイズは、元から笑っているような顔に更に笑みを浮かべ、


「一つ訊いていいかな?」

 尋ねてくる。

「何だ?」


 ティーンが身体ごとセイズの方に向き直ると、彼は満足したように、

「君、ここに何しに来たの?」

「決まっている。呪法士の資格を取りに来たんだ」

「前に、別の国の呪法院にいたりしたんじゃないの?」

「そのような事実はない」

「ふ~ん……」


 ティーンの答えに、セイズは少し首を傾げ、

「じゃあ、一体どこで覚えてきたのさ? 短縮詠唱とか。ガーネットともいい勝負してたし。彼女、僕らの中じゃ最強なんだよ。強すぎて教官が頭かかえてる」


「短縮詠唱は以前文献で読んだ。他の呪法も、文献の知識を元に我流で完成させた。誰かに師事したことはない」


「我流……ね。大した才能だね。僕の知っている人の中じゃ、二番目ぐらいかな」


「話はそれだけか? 悪いが、これから荷物の整理で忙しく……」


「あ、もう一つだけ」

 ティーンの言葉を遮り、セイズは指を一本立てた。

「君は、どうして呪法士の資格が欲しいんだい?」


「……悪いが、それを話す相手は慎重に選ぶことにしている」


「そっか。残念。でも、僕の動機は聞いておくれよ。

 僕は、お姫様を探してるんだ」

「お姫様?」


「そう。実は僕、ある組織に所属しててね。そこの隊長が、そのお姫様に心底惚れてるんだ。ところが、お姫様は行方不明。僕は、彼女を探すように命令されてるの」


 と、彼はそこで言葉を切り、ティーンの茜色に染まった青い瞳を見据える。

「君、知らない?」


「特徴を言ってくれないと答えようがないが」

「あははは。それもそうだね。

 実は……僕も知らないんだ。会ったこともない。

 でも、金髪に緑の瞳って聞いたけど。


 あ、それからもう一つ」

 言いながら、セイズはまた指を一本立てる。

「何だ?」


「名前は、リーゼ。

 聞いたことない?」

「……ないな」


 ティーンは、自室の扉を開き、閉めた。

 廊下では、セイズが、笑みを浮かべたまま佇んでいた。



◆◇◆◇◆

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