第11話
荒涼とした風が吹く。
かつては、そこは緑あふれる草原と、生命あふれる森であった筈だ。風が吹けば木々が揺れ、草が揺れ――多くの生きとし生けるものが、そこで安寧を得ていた筈だ。
平和な――そう、平和な森と草原だった。
しかし今は、そこには何もない。ただ、いくつものクレーターが重なり合い、地面に爪痕を残すのみである。
「………………」
誰も、何も言わない。ただ一様に、顔を引きつらせてはいるが。
「あらあら、今、呼びに行こうと思ってたのに」
目の前の荒れ地など意に介さないようなのんびりした声で話しかけてきたのは、ハウライドである。
「二人ともなかなかのものよ。見せてあげたかったわ」
彼女の背後には全壊した椅子やテーブルの破片が散らばっていた。よく見れば、呪法院の建物の壁にも、焦げ跡だの亀裂だのが無数に入っている。
ハウライドが視線を注ぐその先を見れば――事の元凶、ガーネットとティーンが、一際大きなクレーターの上で爽やかに握手などしているところだった。
「おい! ティーン! この有り様は何なんだ!?」
「なかなか手応えのある模擬戦だったが?」
ウォルトの怒鳴り声に、涼しい顔で答えるティーン。
「そうそう。それに、周囲に被害が及ばないように、ちゃんと配慮しといたわよ」
「どこがだ!」
上機嫌に言うガーネットに、ウォルトが怒鳴り返すが、彼女がそれを気に留めた様子はない。
「……ハウライド院長」
呪法院の教官が、ハウライドの隣に来て話しかける。
「ティーン・フレイマの指導は、誰にやらせる御積もりですか?」
何となく、声が引きつっていたりもする。
「さぁ……誰に頼もうかしらねぇ……」
呑気に呟くハウライド。
「……院長」
「あら、何?」
「あの二人がいなくなるまででいいですから、教官の数を増やして下さい……」
呪法院の教官は、涙声でそう訴えた。
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