40・抱きしめたい葛藤…

第40話

「でも、そんなに待てないからな…」

「……っ」


紅露の腕の中に包まれて背中に手を回したいのに回せないもどかしさは紅露に気付かれてはいけない。


「紅露…何か用があったんじゃないの?」

「あぁ。これをリリナーアにってさ」


紅露が手を伸ばして机に置いてあった本を私に渡す。


紅露の腕の中から離れて本を開くと紅露の字がビッシリと書かれていた。


「紅露…これ…」

「必要なもんだろ?これからの授業に役立つ筈だし。この世界で生きていくなら尚更な」

「……うん…」


この世界で生きていく…そんな覚悟まだありはしないのに目の前の男性はソレを望んでくれてるの?


「ありがとう、紅露」

「…そんな顔させるつもりなかったんだけどな…」

「……?」


紅露にお礼を伝えたら頬を触られて一瞬だけ寂しいそうな顔をした。


「そろそろ帰るよ」

「あっ、うん。下まで送ってくよ」


紅露から離れて立ち上がろうとしたらグイッと腕を掴まれてまた腕の中に包まれた。


「紅っ…」

「リリナーア、俺が居るからな。俺がお前の側にいるから」

「……」


素直に「うん」と頷けなかった。


「リリナーア、俺が側に居るのに他に考え事か?」

「えっ?考え事なんてっ…」


紅露の顔を見たらさっきは寂しそうな顔をしていたのに今は頬が少し膨らんでイジケてる顔をしてる。


「紅露が側に居るのに他に考え事なんてしてないよ」

「証明出来るか?」

「…証明?」


紅露の首に手を回して笑って頬にキスをした。


「紅露の事だけ。いつだって。だって私は…」

「リリナーア…」


紅露からまた激しいキスをぶつけられた。


「んっ…紅っ…」

「リリナーア…」


キツく私を抱きしめてくれる紅露に応えたいのに応えられる訳が無いから紅露のシャツの裾を掴んで応える。


「これ以上暴走しない様に帰るよ。また明日」

「あっ…うん…」


激しいキスから離れて息を整えていた。


「じゃあな、リリナーア」

「紅露、待って!送ってく」


立ち上がろうとしたら紅露に止められた。


「いいよ。また明日の朝ね」

「……」


パタンッと閉まったドアを見つめて一人取り残された気分に陥った。


「紅露……」


今まで紅露が側に居てくれた香りが私の服に漂っていて私を包み込む。


「……んっ?」


今更だけど何か忘れてる気がした。


自分の手を見て服を見て血の気が引いた。


「あっー!!私……パジャマだったーー!!」


だから紅露は断ったのだった。


「恥ずかしい…」


紅露から貰った本を机に置いてフラフラとベットに身を委ねた。

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