37・意外な事

第37話

「紅露と…キスしちゃった…」


力強いキスをして離れてから視線がぶつかり合ってお互い照れ隠しして笑い合った。


〔…これ以上リリナーアを触ったら抑えが効かない〕


と意味不明な言葉をボソッと吐き出した紅露は〔家に送る〕と言って私の鞄を持った。


まだ、その場に居たかったのに素直に言葉に出来ずに黙って従った。


偽装恋愛してる私の立場は脆い橋の上に居るようなモノ。


紅露に受け入れてもらったとしても心が躍ってはいけない。


「紅露と口付け出来た事嬉しかった…」


自分の唇を壊物を触る様に優しく触れた。


「紅露ともっとキスしたかった…?」


ボフンッとベットに横になった。


それ以上先に進むのは怖い気がするけど紅露なら受け止めてくれる。


偽装恋愛してる私達だけど今の私の彼氏は紅露。


「紅露に嫌われない様に自分磨きは大切よね?」


そう思って起き上がって机に向かった。


「あっ…」


刺繍が目に入って椅子を引いて刺繍枠を手に取った。


「下手だけど完成させて紅露の喜ぶ顔が見たい」


そう感じて刺繍を手に取った。


携帯で縫い方を見ながら自分の縫いたいモノを縫っていく。


「………」


お母様の声が聞こえない位夢中で縫っていた私はお母様が私の部屋に来るまで気付かなかった。


「霞!呼んでるのに…って、刺繍?」

「あっ!うん」


お母様に見られるのは恥ずかしかったけどお母様は無遠慮なく私から刺繍枠を取り上に掲げた。


「お母さん!」

「上手じゃない。紅露君家の家紋を縫ってるって所かしら?」

「うっ…なんでそれをっ」


お母様に早々に見破られて恥ずかしくって早く返してもらう事にしたらお母様は笑って私に返す。


「私もパパの家紋を刺繍して渡した事があるのよ?」

「!!お母さんも刺繍が出来るの?」

「何十年前だからもう忘れちゃったわよ」


お母様はそう言って「ご飯よ」って言って下に降りて行った。


「お母様が…刺繍をやっていたなんて…」


自分の縫い掛けの刺繍を見て驚いたと同時にお母様もやっていた事に嬉しかったと同時にお母様に申し訳なかった。


「ごめんなさい、お母様…」


今、自分はお母様と血の繋がりは無い。


見た目だけさんで中身はリリナーアという自分・・がココに居る事に謝る事しか出来なかった。


どうすれば元の世界に戻れるのか分からない。


「霞さんだって戻りたいって思ってるよね…」


そう思ってるけど今の時点でどうする事も出来ない。


「霞さん…ごめんなさい…」


両手を胸に当てて謝った。


私の謝りが聞こえてるのかを願う様に…。

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