35・ゆっくりと優先するよ

第35話

「霞、お待たせ」

「紅露…」


今、紅露の部屋に初めてお邪魔してる。


壁掛けにさんと紅露が笑って楽しく写ってる写真を見ていたら紅露がお茶とお菓子を持って部屋に入って来た。


「霞だよって…今も霞か」

「……あっ、うん…」


頭から冷や水を、かけられた気がした。


また線を引かれた気もして胸が痛む。


「リリナーア、冷めない内にどうぞ?」

「ありがとうございます」


紅露からお茶を淹れてもらって写真から体を離して座る。


「いただきます」

「リリナーアが淹れたお茶の方が美味いと思うけど俺ので我慢してな」

「紅露の淹れてくれたお茶なら嬉しい」


茶葉が蒸されてない味がするけど好きな人が…気になってる人が淹れてくれたお茶。


「霞さんとはどこまでしていたの?」

「んっ?!」


……あれっ?……言葉を間違えた!!


「紅露、違うのよっ!私が聞きたいのはっ」

「……あはははは」


紅露が笑い転げてる。


私の間違った言葉にお腹抱えて笑ってる。


「紅露……?」

「あっ、ごめん、ごめん。あっー‥おかしい」


涙目の紅露にどうして良いか分からない私は顔が真っ赤になっていく。


「霞とはどこまでだろうね」

「……!!」


意地悪な質問返しに顔がまた真っ赤になる。


「リリナーア、俺はね…」


テーブルの上で紅露の腕が伸びて来て私の両手を包み込んで自分の口元に持って行き真剣な目で私に伝える。


「リリナーア、俺はゆっくり進みたい。ちゃんとリリナーアの気持ち優先するよ。リリナーアとこうやって手を繋いで歩いて行きたい」

「…紅露……」


紅露が私を優先してくれる…なんて。


その気持ちに応えないといけないのに私達は偽装恋愛。


かりそめの恋愛でも寄り添ってくれるっていう紅露の広い心が苦しく悲しい。


「リリナーア、ゆっくりね」

「!!」


そう言って私の手の甲にキスを落とした。


「本当は…」


そう言って紅露の手が私の頬を撫でる。


「この柔らかい唇にキスしたい…」

「!!」


キスはまだ私にとっては大きな壁。


さっきは紅露とキスしたい…と思っていたのにいざってなると我に帰った。


慌てて紅露から目線を逸らした。


「リリナーアの気持ちを優先するよ」

「うんッ…ありがとう…」


紅露の手が私の頬を撫でるのは安心する。


「その顔、他のヤツに見せるなよ?」

「その顔…?」


気持ちよくて大きな紅露の手の中に自分の顔を擦り付けた。


「リリナ!!」

「紅露の手…大きくて大好き…」


安心する大きな手。


偽装恋愛で良いから私を見てくれなくても良いからこのぬくもりは感じていたい。

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