16・背中に映るのは…

第16話

紅露さんと歩きながらカフェで頼んだ飲み物を手に持ちながら街中を歩く。


見慣れない物ばかりで新鮮で足が止まるのを、紅露さんは気にせずに一緒に止まってくれる。


「可愛いですね」

「そうだね。でも、霞の方が可愛いよ」

「…ありがとうございます…」


サラッと恥ずかしげもなく言ってしまうからどう返して良いか分からなくなる。


「霞!これ霞に似合うね!」

「わぁ!これも可愛いです…けどきわどい部分が…って!紅露!!」

「あはは。霞も可愛いって言ったじゃん」

「可愛いとは言いましたけどもぉ!」


紅露さんとじゃれ合いながら腕を軽く叩いて二人で笑い合う。


偽装恋愛じゃなくて本当に私を好きに…って!


慌てて首を振ったら紅露さんが不思議に思ったらしく私の手を握りしめた。


「リリナーア、ゆっくりでいいよ。俺、焦らないから」

「紅露…さん…」


笑って私を励ましてくれて、私は紅露さんに何を返せるか考えて紅露さんを見る。


「…キスする?」

「!!しません!人混みです」

「じゃあ…」

「!!」


人混みの中、誰かに見られてるかもしれない。


見られてないかもしれない。


なのに、紅露さんは素早く私の頬にキスを落とす。


「リリナーア、可愛い」

「〜〜っ」


異性に、それも成人してる男性にキスをされるなんて初めてで固まってしまった。


「リリナーア、本当に可愛いね。さぁ、行こう」

「〜〜っ」


そうやって笑っているのも私が返さないとでも思ってるのかしら?


そう思ったら体が勝手に動いていて私も人混みの中なのにかかとを上げて肩に手を添えて頬にキスをした。


「やられたらやり返します」

「!!」


紅露さんは呆然としていたから間違えてしまった?と思って顔が青くなる。


「霞!」

「きゃあ」


笑顔になって抱きしめられた。


「霞、愛してるよ」

「〜〜っ」


その言葉は言えない。


紅露さんは私の中にさん自身を見てる。


「それっ、私もやるから〜やって!紅露」

「茜っ!離せ」


抱きしめられてる腕の中で茜さんが視界に飛び込んで来た。


「茜。アンタ何してんの?」

「紅露の行動を、監視?する日〜」

「えっ?怖っ」


茜さんの言葉に引いていたら耳元で紅露さんが囁いたから頷く。


〈リリナーア、走るよ〉

「きゃあ!紅露待ってよー」


紅露さんが茜さんを振り解いて走り出した。


私と手は繋いだまま茜さんが見えなくなるまで走った。


私の視界に紅露さんの背中だけが映る。


この背中に何処まで着いていく。


「大丈夫か?リリナーア」

「はい!大丈夫ですわ」


息を整えながら答えた。

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