9・携帯講習終了〜

第9話

急に紅露さんが動かなくなり反応しなくなって不安に陥った。


触る事も出来ずに紅露さんの名前を呼んだ。


「抱きしめてほしい…」


男性を抱きしめるなんて初めての事だし、ロイアン殿下とも触れ合う事は無かった。


頭が項垂れて悲しそうに言う紅露さんを見て抱きしめてあげようという気持ちが膨らんだ。


紅露さんだって霞さんという存在を私が無くしてしまった。


震える手に力を込めて紅露さんを抱きしめながら携帯に目が行く。


紅露さんが反応しなくなった理由がきっとそこにある。


「ロイアン殿下に会えて良かったね」

「あっ…はい。ありがとうございます」


腕の中で話しかけられてビクッとしてしまった。


「リリナーア、ありがとう。携帯の続き教えるよ」

「はい」


抱きしめていたのを解いてお互い向き合って座る。


恥ずかしくって顔が上げられないけど教えてもらうのだからしっかりしないと…と叱咤した。


「はい。リリナーア」


霞さんの携帯を再度渡されて説明を受ける。


「電話のかけ方だよ」

「はい」


紅露さんに教えてもらって紅露さんの名前を見つけて電話をした。


《聞こえますか?紅露さん》

《聞こえてるよ。リリナーア》


紅露さんは実践してくれる為に部屋から出て行って部屋に私一人。


扉の向こうに紅露さんと電話をしていた。


「電話の応答はこうやってやるんだよ」

「はい」


この機械、本当に凄いと関心してしまう。


「疲れた?大丈夫?」

「大丈夫です!まだいけます」


王太子妃教育なんてこれよりもっと辛かった。


弱音なんて吐いちゃいけない。


「…リリナーア。少し休憩しよう。ずっと睨めっこしていたら疲れるよ」

「…はい」


そう言って紅露さんは部屋から出て行った。


「私…紅露さんに感謝を伝えたいわ…」


紅露さんだって寂しい思いをしてるはずなのに笑ってる。


「携帯…」


携帯が視界に入ったから携帯を持ち上げて紅露さんがパスコードを解除してくれボタンを押したら直ぐ画面が開いた。


「写真?」


聞いた事無い言葉を口に出して押したら画面に紅露さんと私にそっくりな女性が写っていた。


「…じゃないわ。この人が本来の…」


十夜霞さん…紅露さんの恋人。


紅露さん、こんな顔するんだ…と胸がチクッと痛んだ…。


「お待たせーって。写真?そんなの見たって面白く無いでしょ」

「…紅露さんを見れて楽しいです」


私の知らない笑顔の紅露さんがいて霞さんが羨ましくなった。


「どれどれ?」

「!!」


紅露さんと顔が近くなり心臓が高鳴る。


この高鳴りはきっと気のせい…。

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