第100話
「そんな筈ないよ!
何かの間違いだよ!」
第一声はこれだった。
実は侍女たちも丁鳩から送られてきたと聞いて、まず信じようとしなかった。
「兄様は花と無縁だよ?
花を贈るのも愛でるのも! 絶っっッ対! しないよ?」
礼竜が必死に否定しているのは、帰ったら幾つもあったアマリリスの鉢の送り主が兄であるという事実だ。
――まただわ。
侍女も怖がって泣き始める者まで出ていた。
そんなに合わないのだろうか。
仕方なしにアマリリスの意匠のこと、その場に居合わせた丁鳩にアマリリスを見たいと言ったことを根気よく説明すると、
「……うーん……
要するに、兄様は資料として送ってきたの?」
――資料……。
その言葉に引っ掛かりを感じつつも頷くと、
「そっか。
たまたま資料がアマリリスの鉢だったんだね!
……怖かった……」
最後の一言は心底怖いという顔で言う礼竜に、もう好きにしてくれとしか返しようがない。
「ところで、それは何? それに顔が青くない?」
「公務で着けられたんだ。魔力測る術式だって」
礼竜の周りには、弧を描くように幾つもの球体が舞っていた。
雪鈴の目にはアマリリスの鉢よりもよほどこちらのほうが問題ある様に見える。
更に言うことには、
「ちょっと血を採られたから、貧血気味で顔が青いんだと思う……」
大問題だった。
礼竜の話によると、ずっと風成を連続して使わされ、その度に採血されていたらしい。この球体は最初に付けられて消えないのだとか。
……実験動物……。
「魔力測るだけで写絵や写音を勝手に撮ったりはしないって言うし、心配ないよ?」
疑問もなく言う礼竜に、疑えと言いたくなる。
球体に触ってみると、すり抜ける。触れることはできないようだ。
「…………
……晩御飯の献立、ほうれん草とレバーの炒め物追加するわね。
先に食べてて」
思考を巡らせ、とりあえず造血の助けになるものをと提案すると、大喜びで椅子に座って待っている。
――あとでお義兄さまに相談しないと……!
少なくとも、この平和頭の王子に疑いの感情を芽生えさせる方法は絶対必要だ。
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