第98話

「……ほ……」

「……ほ~……」


「なんか、初めてお前さんがレース織ってるとこ見たライみたいだな」

 レースの手間を知らなかったのだろう。雪鈴がボビンレースだからとボビンレースの見学を始めた二人は、店主の説明を聞きながらついていけていない様子だ。


「ま、これでお二人もレースを丁寧に扱ってくださるといいんだが。

 あ、エルベットの王侯貴族、みんなこういう感じだぞ?」

「察していました。

 でも、お義兄様はお詳しいですよね」


 ボビンレースが趣味だと聞いてすぐに道具を手配してくれたし、手間を見ても全く驚かなかった。


「まあ、俺は小さいころから出入りの商人とよく話してたし、お忍びで城下をうろついてあれこれ見てたしな」

 いつボビンレースを見たのかは覚えていないけどな、とあっけらかんと言う。


「そういえば、アマリリスやアマリネやネリネって、どの辺に咲いていますか?」

 実物を是非見たいと、義兄に経緯を話すと、

「分かった。魔力栽培と天然栽培、それぞれ用意して送っとく。

 魔力栽培はほぼ枯れねぇからじっくり見られるぞ」

 言って、メモに書きつけて側の騎士に渡す。


「ありがとうございます」

 言ったあとで、

「ライはお花が好きだから、ライに聞いた方が喜んだでしょうか?」


 言われ、丁鳩は何かを思案した後、

「ライの反応、面白いぞ?」

「……?」


「さて、用事は済んだんだな。じゃ帰るぞ。

 お二人はしばらくレースの見学だ。


 見やれば、王太子二人は自分のレースのハンカチをそれぞれ持って、呆然としていた。



◆◇◆◇◆

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