第97話

「材木はアマネロで……。

 ところで、こういったものはご存じでしょうか?」


 店主は織り台を示した。織り台の上が、小さな正方形に区切られている。

「ブロックピローというもので、最近他国から入ってきました。」

 ブロックを抜いて、

「こうして並べ替えれば、常に織りやすい位置で織ることができます。

 どうぞお試しください」


 ここは速く織れたほうがいいだろうと判断した執事がゲージの一番大きな型紙を出してくれる。

 それを織り台に固定し、しばらく織ると……

「確かに、織りやすいですね。

 こちらもお願いできますか?」

「はい、もちろんでございます。


 ところで、アマリリスの意匠はあまり見ませんが……お好きなのですか?」

「……アマリリス?」

 何の事だろうと雪鈴は首を傾げる。


「ああ、失礼を。

 この花はアマリリスではなかったのでしょうか?」


 ――花?


 問われ、雪鈴は織り台の上に咲く花を改めて見つめる。

 これは何の花だろう。


「これはどこかの伝統的なモチーフではないのですか?」

「いえ、初めて拝見します。

 ここに昔、アマリリスを織ったレースメーカーの記録もございますが……」

 言って店主はレースと、レースメーカーの写絵を出す。

「まったく異なるでしょう?

 

 これはアマリリスというより、アマリネでしょうか……」

「アマリネ……?」


 店主は植物の写絵を次々に出して、

「これがアマリリス。このアマリリスとネリネという花を掛け合わせて生まれた品種がアマリネです」


 なるほど、ネリネやアマリネに似ている。似ているが……


と、店の方が騒がしいのが聞こえてきた。この声は聞き覚えがある。


 向かってみると、やはり――


「イザベリシア殿下、イザベルシア殿下!

 俺は今、雪鈴の警護中です! 離れるわけにはいきません!」

「アナとアムで良いと申しておりますわ!」

「ライくんもそう呼んでくれますわ!」


「確かに俺はライの兄ですが、それだけです!」


 昨日はしんみりとした感じだったのでイメージが全然違うが、双子の王太子だった。

二人揃いの妖艶な深紅のドレスと髪型、アクセサリーまで一緒だ。


 美女二人に絡まれて、丁鳩はまんざらでも……ないような様子は一切見られず、どこかに逃げ道を探しているようだ。


 助けなければと声をかけようとすると、先に丁鳩がこちらを見つけ、

「来るな! ここは俺が対応するから!」


 だがそれで、二人の関心を雪鈴に向けてしまった。

「ユ~ズ~ちゃん!」

「遊びましょ!」


 すかさず二人が両手を取り、にこにこと遊びに誘う。


「アム殿下、アナ殿下……ご公務は……」

「急にお休みになっちゃったのよ」

「ライくんのことで手一杯なんだって」


 ならば礼竜を助けてほしいと思うが、この二人がどういう位置にいるのかも雪鈴にはわからない。


「すみません、私はライのレースを織らないといけないので……」


 と、助け船は意外なところから来た。


「両王太子殿下。

 せっかくいらっしゃったのです。レースをご覧になられませんか?」

 店主が店の奥へ二人を案内した。



◆◇◆◇◆

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