第94話

――温かい。

 まず感じたぬくもりをもっと欲して、顔を摺り寄せる。

「……ゆすず……」

 このぬくもりを他の何と間違える筈もない。将来彼の愛妻アドアとなる女性のぬくもりだ。

 さらに顔を押し付け、柔らかさに浸る。


「………………

 ……――!」


 自分が何をしていたか気付き、途端に目が覚める。

 礼竜は――隣で眠る雪鈴の胸に顔を埋めていた。


「ふふ、起きた?」

「お、起きました!!」

「よく寝てたね。蕁麻疹も治って良かった」

「はい!! ええ!! ……ま、まあ!!」

 雪鈴は礼竜の背中に回していた手で頭をぽんぽんと撫で、

「今朝のライ、面白い」


 一方の礼竜は、全身の血が引く思いだった。

 パレード、急な帰城、晩餐会と、例の避妊措置を受ける時間がなかった。もし手を出していたらと思うと……。


 眠り続けた自分にほっとする。


「……ところで……昨夜眠った時から私の手を掴んだままだから離れられないんだけど……離してもらっていい?」

「あ! ご、ごめん!!」

 クスリと雪鈴は笑い、

「朝御飯の用意してくるね。軽くがいい? それともしっかり?」

「しっかりいっぱい食べたい!」

「はーい。たくさん作るわね」

「ありがとう!」


 雪鈴が離れた途端に傷が痛んだ。だが、ここで顔を歪めると雪鈴が戻ってくるのでおくびにも出せなかった。



◆◇◆◇◆

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