第93話

「あー! 美味しかった!

 やっぱり雪鈴のご飯より美味しいのはないよ! ありがとう! ご馳走様!」


 生き返ったという風に、礼竜は元気に食事を終える。

 魔国で呪王が襲ってきた日の朝に食べたきりの雪鈴の料理は、心にも身体にも染み渡る。

 本当に晩餐会で殆ど何も食べずに帰ってきた礼竜は、目論見通り婚約者の料理をたらふく食べてご満悦だ。


「ふふ、お粗末様でした」

 言って雪鈴は片付けの邪魔にならないよう、礼竜をソファに誘導して横に座る。手を背中に当てると、ほう、と安堵の溜息が聞こえた。


 義兄に言われてから意識して行っている、頭を撫でるという日課に入ると、礼竜は猫の子のように雪鈴の膝に頭を預ける。

 そのまま撫でていると寝息が聞こえ始めた。


 晩餐会から帰った時に比べて蕁麻疹はかなり引いている。ストレスが和らいだのだろう。

 メリナに手伝ってもらって寝間着に着替えさせ、もう二人侍女が加わって寝台に運ぶ。

 寝顔を覗き込んで離れようとしたら、離れられなかった。


 礼竜が雪鈴の手を握ったまま放さないからだ。

 そっと、空いている方の手で頭を撫でると、ゆすず……と幸せそうな寝息が聞こえる。


「あと、お願いできる? 私はこのまま寝るわ」

「はい、お休みなさいませ。お疲れ様でございます」

 雪鈴は隣に横たわり、礼竜の頭を撫でながら子守唄を歌っていた。



◆◇◆◇◆

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