第91話

「雪鈴妃。必ずや賊は捕えます!

 どうか今しばらくご辛抱をお願い致します!」

 初対面の近衛騎士団長が深々と雪鈴に頭を下げる。


 王城に到着し、叔母である国王との面談もそこそこに、一行は王城の王族占有区画へとやってきた。


 本来なら国民の前で手を振って笑顔で帰ってくるはずが、水を打ったように静かな帰城となった。

「本来なら、礼竜殿下は今まで通り独身王族棟の男性棟、雪鈴妃は女性王族棟のエリシア邸をご利用の予定でしたが、雪鈴妃の御身のためお二人揃って家族棟で同居していただくことになりました。

 ご案内いたします」


 と、足音が複数やってくる。

「ライくん、久しぶり!」

「おかえり!」

 数名の騎士と共にやってきたのは、三人のドレス姿の女性だ。

 うち二名が同じ外見、揃いの水色のドレスと髪型だ。

「テイお兄様、9年ぶり!」

「うわ~! 写絵で見るよりいい男!」

「……9年ぶりです。イザベリシア殿下、イザベルシア殿下。

 すっかりお美しくなられましたね」


 それを聞いて、雪鈴は彼女らが噂の双子の王太子なのだと分かった。美女とは聞いていたが、顔も気品も身体つきも申し分ない、超美人だ。


「テイお兄様を捕まえるために花嫁修業しましたの!」

「あ! アナずるい! 私もテイお兄様を射止めたいですわ!」

「呪われた魔国の王族は、お勧めしませんが……」

 丁鳩は引き気味だ。


 と、二人は雪鈴のほうに目を向けると、

「あなたがユズちゃんね?」

「可愛い……ライくん、こういう子が好みだったのね」


 ユズと言われて誰のことかと思ったが、雪鈴を略したものだろうと推測できた。


「大丈夫? まさか命を狙われるなんて……」

「ここは安全よ。騎士長たちが守ってくれるわ。

 それに、私たちも守るからね」

「あ、ありがとうございます……」


「私はイザベリシア。アムでいいわ」

「私はイザベルシア。アナって呼んで」

「えっと、……お二人は同じ御名をお持ちでしたね」


「そう。杏亜那夢想あなむ

 だから私が略してアナ」

「私がアム。

 ……ゆっくり話したいけど、今はライくんの治療とユズちゃんのケアが先だから、あとでお邸に行くわね」


「騎士長、お願いね」

「はっ! 殿下がたのご信頼に必ずや応えてみせます!」


 イザベリシアとイザベルシアが騎士と共に去ると、鮮やかな癖のある金髪の女性とライオルが残った。


 彼女はまず、丁鳩の前に進み出ると、

「お久しゅうございます。丁鳩様」

 横でライオルが傅く中、丁鳩を見つめて言葉を紡ぐ。


「お久しぶりです。リディシア殿下」

 彼女は魔国にいる間の丁鳩の文通相手だった。




◆◇◆◇◆

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