第90話
結局、パレードを中止して礼竜たちは王都――王城へまっすぐ向かった。
だが、風成ではない。翌朝皆の前に現れた礼竜は全身が蕁麻疹だらけだった。
風成は怪我人や病人は運べない。厳密には礼竜の遺伝病も【病人】に該当する案件なのだが、そこは術者本人に初めから根付いたものだからということだろうとのことだった。そして今回の蕁麻疹は、礼竜が風成を使えない要件に該当した。
臙脂の近衛騎士が馬に乗って周りを固める中、馬車の中で丁鳩が神経を張り巡らせ最大速度で王城へ向かう。
礼竜は雪鈴を壊れ物のように大事に抱き締め、雪鈴は礼竜の背中に手を当てていた。
礼竜の呪いの傷を和らげるためのレースの肌着は、2着を残してあの日、血と炎で使えなくなった。残った2着のうち1着は礼竜が当日着ていたもの。もう1着は鳥の粗相がついてお蔵入りしていたものだ。
鳥の粗相がついたものは何度も染み抜きをしたため弱っていて、すぐに使い物にならなくなった。
そして、残る1着は、昨夜礼竜の気持ちを代弁するかのように破れてしまった。つまりは、礼竜を傷の痛みから護るものは今は雪鈴の手しかない。
「雪鈴……ごめんね……」
「ライ……次に謝ったらつねるわよ?」
雪鈴は笑顔で言う。
「ライったら昨夜から謝ってばっかりじゃない。
私は狙われるのを知っててライと婚約したし、傷があることも知ってたのよ。
それに、今ライの重荷になっているのは私。だから、次にライが謝ったら、その分私が謝ります」
「そんな……」
「いいの!」
「うん。……ありがとう」
雪鈴は蕁麻疹を避けて礼竜の顔を撫で、
「それでいいの!」
にこやかに微笑んだ。
丁鳩はそんな二人を見て、ただ、弟を助けてほしいと願うばかりだった。雪鈴が弟に笑顔を向けていることへの嫉妬など、欠片もなかった。
昨日と同じく護衛として同席しているライオルは、丁鳩の想いなど知るはずもない。
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