礼竜の章 2,双子の王太子
第89話
礼竜の章 2,双子の王太子
エルベット王国。
国土の大半が豪雪地帯で標高も高い。
他国との国境は周りの切り立った山で、歴史を紐解いてもその線が侵害された形跡も広がった過去もない。
他の国に言わせれば、エルベットの王家に野心がないことが救いだった。
この国の王族は代々【予見の知】と呼ばれる能力を引き継いでおり、国の動かし方から他国の侵略のパターンまで全て見通してしまうと言われている。
事実、肥沃な国土でもないエルベットは商売が上手く損をせずに他国と取引し豊かな国政を実現しており、侵略に遭った際は驚くほど自国の犠牲を出さずに追い返している。
一部研究者は、エルベット王族を嫁や婿にもらっても子孫に【予見の知】が発現しないこと、そうした王族がエルベットに里帰りした途端に能力を持つことから、エルベットの国土でないと【予見の知】は起こらない。
故にエルベットは国土を拡げないのだ。と持論を展開しており、この説にエルベット王家は何も言わない。
他国の思惑は、今手に入らないエルベット王家の【予見の知】よりも、稀に見る魔力で稀有な風成を成した王子の動向に向いていた。
婚約者がいると聞いていても所詮は市井の娘であり、正妻の座を狙いあわよくば王子やその子孫を手に入れたい――そして強大な魔力を手中に収めたい。
そんな大人たちは大勢いた。
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