第88話
「……え……私……?」
呆然と雪鈴が呟く。
「そう。狙われたのは君だよ。
あの場に魔弾で死ぬ人間は、君しかいなかったんだ……」
急遽、近くの騎士の詰所に寄り、近衛騎士団と王城でやり取りがされる中、礼竜は事実を婚約者に言う。
「魔弾っていうのは、魔力の塊なんだけど……魔力をある程度持っていれば自分の魔力で相殺できて無害なんだ。
死ぬのは……魔力を持たない人だけ……。
雪鈴には魔力はないから……」
「ちなみに俺は一般人並みの魔力ですが、リデ様から魔力の扱いの手解きを受けているので魔力量以上のことができて、魔弾でも死にません」
辺りを警戒しつつライオルが補足する。
王城から派遣された近衛騎士のうち、ライオルの部隊が警護にあたっていた。
「丁鳩殿下が殺気に敏くて助かりました。
……そうそう、一般人の被害もありません」
被害を出す前に襲撃者が自死したからなのだが、しかしそれでも側に居た一般人は人が死ぬところを目の当たりにしてトラウマを負ったかもしれない。
「やっぱり、プロのアサシンだった。憶測だけどな。
遺体にも手掛かりが無さすぎだ」
遺体の検分をしていた丁鳩が戻ってくる。
アサシン――暗殺者。
今度は嫉妬によって衝動的に殺されかけたのではない。
誰かが暗殺者を雇い、計画的に雪鈴を殺そうとしたのだ。
礼竜が雪鈴の小さな身体をぎゅっと抱き締める。
「僕が守る。何があっても僕が守る。
僕が雪鈴を危険な立場にしたんだ……」
「……ライ……」
暗い顔の礼竜の背中に手を回してみるが、表情は和らぎはしなかった。
「ライは教えてくれたわ。【僕の妃になったら暗殺されるかもしれない】って。
それでも私はあなたと婚約したのよ?
あなたのせいじゃないわ」
「雪鈴……」
「王都へ直接風成で行くか、このまま馬車で各地を巡るか、今義叔母さまたちが話し合ってる。
ライは当然、風成だよな?」
「当たり前です! また雪鈴が襲われたら……!」
「分かった。上に言っとく。
とりあえず今日は休め」
礼竜は雪鈴を抱き締めて横になったが……二人とも一睡もできないまま夜が明けた。
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