第87話
王都に近づくにつれて人は増えていく。
雪鈴は礼竜と並んで座り、慣れてきた【笑顔で手を振る】という仕草をしていた。
「イオルは凄いんだよ。
20歳で青の一なんて、エルベットで最高だよ」
「恐れ入ります。殿下」
屈託なく笑うライオルを見ながら、
「あの、青の一って何ですか?……あ、ごめんなさい!
青の一って何?」
思わず敬語で聞いてしまい、言い直す。
「近衛騎士の階位だよ。
緑が一番下で次が青、最高位は臙脂だ。
それぞれの色に数字があって、一が最高。
20歳は青の一以上に昇進できないんだよ。だからイオルは今昇進できる最高位にいるってことになるんだ」
「丁鳩さま、お褒めいただき恐悦至極です!」
民衆が途切れた隙に話していると――
丁鳩がいきなり窓を閉めにかかる。
「襲撃だ! これは……魔弾だ!」
礼竜とライオルが雪鈴を守るように覆い被さる。
丁鳩が作った魔力障壁が馬車だけでなく、周りにいた近衛騎士も包む。
「……な、なに……?」
「雪鈴、じっとしてて! 僕たちが守るから!」
「襲撃者は進行方向の樫の木の側にいる二人だ! 取り押さえろ!」
既に馬車の外に留まっている鳥と五感を共有した丁鳩が指示を飛ばすと、近衛騎士が役割分担を素早くしつつ、二人を押さえにかかる。
――だが。
「……ちっ……!」
襲撃者二人は、ナイフで自身の首を掻き切った。
物言わぬ躯からは何も聞き出せないだろう。
◆◇◆◇◆
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