第84話

 この馬車がすぐに礼竜たちを迎えに来なかったのは、ただ単に大きすぎて検問より奥に行けなかったからだ――と見て分かった。


 近衛騎士団が整列し隊長が歓迎の言葉を述べるのを聞いているのかいないのか、当然のように雪鈴を馬車に入れる礼竜に、

「……いつも……こんな感じ?」


「……?」

 雪鈴は何を言っているのだろう? と首を傾げた後、

「あ、これは王家の紋だよ」

 取り敢えず馬車に大きく掲げられた紋章を指差す。


「指差しちゃダメ」

「……?

 人じゃないからいいでしょ?」


「いつもこんな馬車乗るの?」

「え……この馬車、気に入らない?

 どんなの? どんなのがいいの?


 大丈夫だよ、まだ他に待機させてるから。ごめんね、好み聞かずに決めちゃって」


 言うなり先程まで挨拶していた隊長を呼んで何やら指示し始める礼竜を雪鈴が止める。

「……どうしたの?」

 訝しげな礼竜に、

「殿下。

 多分違います」

 ライオルが説明してくれた。



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