第83話

鳥が見せた景色の場所に立つと、

「今越えたのが国境の山。

……で、あっちがエルベットの入り口で検問の場所」


 相変わらず付いてきていない雪鈴に指差し教えるが、驚いたようにきょろきょろとしているだけだ。


「――雪鈴」

 腕を回して婚約者の首を掴むと、

「付いてきて。

 慣れてくれないと……この先困るよ?」

 大事そうに包んで首筋に口づける。


「ああ!

 大事なところな気がする!

 気がしますよ! 丁鳩さま!


 この手を放して! 見せて!

 み~せ~て、ください!」


 丁鳩に後ろから目を塞がれていたライオルは、どうにか戒めを解くと、


「ああ! 事後!

 ちょっと! もう一度!


 キスシーンですか? キスシーンですね!


 ベリ様とベル様からも、重々に【盗撮って】くるよう! 王太子命にて申し付けられております!


 ささ、殿下! もう一度!」


「さ、行こ」

 雪鈴の手を取ってスタスタと歩き出す礼竜に、


「待ってください! 礼竜さま!


 ベリ様とベル様にお仕置きされます!


 どうかこの哀れな犬を助けると!

 助けると思ってもう一度!」


「……ライ、雪が……」

 初めて踏む雪の感触に雪鈴が戸惑っていると、

「あ、そっか。


 雪道はね……」

 手を丁寧に取り、覆い被さる様にして歩き方を教え始める。


「礼竜さま!


 密着もいいですが、キスシーンを!


 っていうか、背がお伸びになって声変わりまで始まって……ベリ様とベル様がさぞ! 哀しまれますよぅっおっ!」


「相変わらず喧しいな。お前」

 首筋に手刀を落とし、がっくりと項垂れたライオルを片手で持って丁鳩が後に続いた。

「っていうか、ライ!


 人目のあるところで雪鈴に甘えるな! 困ってるだろ!」


 魔国で礼竜が民衆に別れを告げて、まだ一日だった。



◆◇◆◇◆

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