第73話

「……雪鈴」

 祖父は今居た孫の部屋から続き間を叩き、

「今すぐに逃げる準備をしなさい。

 侍女も執事も皆、先に逃げるように」


「お義祖父様……?」

「早く。

 皆、逃げなさい。総員撤退だ。

 ……ああ、近衛騎士団の残りに来てもらうように伝えてくれ」


 侍女たちが緊張を顔に張り付けて去っていく中、雪鈴は思わず昨日織りあげたばかりレースを掴み、懐に入れる。

 

 それだけが、持ち出せたものだった。

 爆炎が、エリシア邸を揺らした。


 風穴の空いたファムータルの居室に――禍々しい影と、一瞬遅れて白い影が現れた。

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