第63話

「兄様、サティ義兄様、お祖父様!」

 丁鳩が丁鳩邸に居ると聞いたファムータルは、お菓子の包みを3つ持って雪鈴と共に訪れていた。


「改めて、紹介します。

 婚約者の雪鈴です」


 大事そうに雪鈴の肩を抱きよせる。


「昨日は大変だったと聞いたが……婚約できて良かったな」

 祖父が頭を撫でると、猫だったらゴロゴロと大きな音が聞こえるであろう様子でふにゃふにゃと幸せそうに笑う。


 昨日の騒ぎのある意味元凶の丁鳩とその兄は複雑そうに笑っている。


「エルベット王室と神殿に報告しておこう。

 御名の希望はあるか?」

「あ、それなんですけど……」


 ファムータルは雪鈴と目を合わせ、次いで丁鳩をちらりと見やり、

「御名も雪鈴でお願います」

「丁鳩と同じか?」

「はい」


「おい、礼竜。

 レヴィスに憧れてるのは知ってるが、何もそこまで……ちゃんと考えたか?」

「はい、サティ義兄様。二人で考えて決めました」


「なら……いいか」

 言ってサティラートは、丁鳩そっくりの仕草でファムータルの頭をぽんぽんと撫でる。


「いいか? 大事にしろ。放り出したら、オレやレヴィスが搔っ攫うからな!」

「はい! 絶対離しません!」

 宣言すると、雪鈴の手を引き、


「じゃあ、昨日すっぽかした公務に行くので!」

 三人に手を振って去っていった。


 ファムータルは雪鈴を連れて昨日の孤児院へ行き、皆の前で雪鈴を婚約者として紹介し、赤子の名付け親になり、孤児院の子どもたちに菓子を配った。

 この時の写絵が広く魔国中、そしてエルベットにも広がっていった。

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