第62話

 夕食を侍女の食事で我慢したファムータルは、雪鈴を抱き締めて気持ち良く眠りについた。


 だが――起きれば雪鈴はいない。


「雪鈴? どこ?」

「厨房にいらっしゃいますよ。お食事の準備をなさっています」

 慌てて雪鈴を探すと、侍女が教えてくれた。

「御御足はもう治っておられます」


 言われてみれば、良い香りがして食欲をそそられる。

 調理の邪魔になるようだったらすぐに出ようと思いつつ、厨房へ行ってみた。


「雪鈴、おはよう」

「おはようござ……いえ、おはよう、ライ」

 照れたように笑う雪鈴の前には、鍋が二つある。


「……?」

 どちらも同じものに見える。


「そのお鍋、どう違うの?」

「これ?

 こっちが豚肉でこっちが牛肉よ」


 話を聞けば、元々雪鈴が知っていたレシピではラム肉だったため、別の肉で味を調整しているのだとか。


「ちょうどいいから、味見して好みを聞かせて」

 言われ、シチューを少量ずつ味見させてもらう。


「どっちも美味しいよ! それに、こんな透き通ったシチューは初めてだよ!」


 雪鈴が作ったシチューは、ホワイトソースもデミグラスソースも使われておらず、澄んでいた。

 エルベットでは見ない料理だ。


 ――雪鈴はどこの国の出身なのかな……。


 そんな好奇心が湧くが、それは辛い記憶だ。ファムータルは胸の内に仕舞った。


 足の加減を聞くと、雪鈴が忙しそうなのでファムータルは厨房を出た。

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