第56話

 犯人はすぐに確保された。

 エリシアのネックレスが引きちぎられた場所に来てみれば、森の入口だ。犯人は口を割らずとも鈴華が何処へ行ったかはすぐに分かった。


「ライ、少し待て!」

 今に犬が来るからと、弟を押さえつける。すぐに森に入りたいのは丁鳩とて同じだ。


 エリシアのネックレスが引きちぎられたのをファムータルが魔力を通じて感知し、ジュディの企みはすぐに明るみに出たのである。


「ネックレスを付けていてくれたら、どこにいてもわかるのに……!」

「ライ、お前、他に追尾できるもの持たせなかったのか?」

「指輪だってここだし、他にはありません!」

 

 そう言い合っている間に、サティラートが来た。

「待たせた! 公にできないって言うから、魔犬だけ連れて来た!」

「サティ義兄様!」


 丁鳩は手甲を外し、手袋を脱ぐと自分の指先を噛み破る。


「兄様、僕がやります!」

「お前はやめとけ! 呪術は使うほど呪われる!」


 魔国の呪われた血を引くものだけが使える血呪だ。

 ファムータルも習っていたが、実用したことはない。


 丁鳩の血が空中で軌跡を描き、すぐに【眼】が開く。

 それを魔犬と共有し、走らせた。


 走っていく兄の後を追おうと走ろうとしたら、後ろからサティラートに抱えられる。

「お前の足より、こうしたほうが速いだろ?」

「……ぐ……」


 できれば、誰の助けも借りずに鈴華を助けたい。だが、そう言っていられる状態でもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る