第53話

 お散歩、とは言っていたが、ジュディは鈴華の手を引いてずんずん進んでいく。


 そして、人気のない森の入り口に来た。

「入ってください。もう森から出ないでください」


「……え……」


 鈴華を見るジュディの瞳には、妬みと憎しみがあった。


 ――僕の妃の座を狙う人も多い。……きっと、嫉妬されて、嫌がらせもされると思う。殺される可能性だってある。


 鈴華がすぐに思い出したのは、ファムータルが告白してきた時の言葉だ。


 そう――鈴華は瀕死の奴隷だった。

 それが王子妃になろうかという立場にある。


「……ごめんなさい。あなたも辛い目に遭ったのに、私ばかり良い目を見ていましたね」


 ジュディは持っていた鞄を鈴華に押し付けると、エリシアの形見のネックレスを外そうとし――外せなくて鎖を引きちぎる。


「これがあると、居場所がわかってしまいますから」

 取り上げたネックレスを森とは逆の方向に投げると、

「早く消えてください!!」

 鈴華が森に入っていくのを見届け、自分は何処へともなく姿を消した。

「丁鳩さま……」

 未練を呟きに残して。

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