第51話

「じゃ、これはリデ様からです。お返事いただいたら俺は帰りますので言ってください」

 写絵と写音を納めたものだが、輸入品である二枚貝に入れて送ってくるところがリディシアらしい。

 王女リディシアの騎士にしてファムータルの乳母兄のライオルは、笑顔でウィンクすると部屋を出ようとした。

 と、――

「丁鳩殿下、失礼いたします」

 

 ライオルはすぐに思い出した。先程の侍女だ。

「鈴華さまがお休みくださいません。

 ファムータル殿下のことしか考えておられず、ご自身は後回しで……」

 何とか休ませてくださいと泣きつく。


「鈴華様……何で殿下のプロポーズ蹴ったんでしょう……?」

 ここまで思うなら婚約しかないのでは、とライオルは思う。

「ライのマイナス思考なプロポーズのやり方が悪いんだよ」

 丁鳩は軽口を叩くと貝殻を机の引き出しに仕舞い、

「ちょっとお姫様を説得してくるわ」

 言って部屋を出ていく。


 ――あの10分の1でも愛されたい……その気持ちは、隠したつもりだった。


 ――そう。【つもりだった】。

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