第50話
「鈴華様、少しお休みになっては……」
執事が見兼ねて声をかけるが、
「いえ、殿下のために急がないと……麻はダメだったし……」
鈴華が織っているのは、ファムータルの肌着にするためのレースだ。
何故か――本当に何故かは分からないのだが、鈴華が触れると呪いの傷が痛くないと安らいでいたファムータルが、鈴華が離れる瞬間に痛みに顔をしかめるのが本当に辛そうで、何かできないかと傷口にレースを当ててみた。
すると、鈴華が触れている時ほどではないが安らぐと言っていた。
肌着にすれば一日中痛みが和らぐのではと、試しに織って仕立ててもらったものを着せてみたところ、身体が楽だと喜んでいた。
だが――ファムータルのデリケートな肌は、麻がかぶれたのだ。
よって、現在絹糸で織っている。
「これでかぶれたらどうしましょうか……」
ぽつりと呟くように執事に訊くと、
「おそらく大丈夫でございます。殿下の今のご衣裳も絹ですから」
その言葉に安堵しつつ、ファムータルの体質も考えず最初から絹を使わなかった自分を責めた。
麻で最初に織ったものが絹だったら、今頃ファムータルは痛みが安らいでいたのだ。
急いでいても、焦らずにと自分に言い聞かせながら織る。
と――
「ジュディ、あなたからも鈴華様にお休みになるよう申し上げてくれませんか?」
入ってきたジュディに執事が助けを求める。
「鈴華様、とりあえずお身体を清めて、横になりましょう?」
だが、鈴華の関心は別にあった。
「殿下はお食事は足りましたか?」
今日は式典までの時間が短く、余分に作ることができなかった。成長期の男子の食欲に足りただろうか?
「エリシア邸からは追加の要請は来ておりません。
さ、お休みにならないと」
だが、鈴華は思い出したように、
「明日の朝食の準備をしてきます」
そう言って、部屋を出て行った。
ジュディと執事は、顔を合わせて溜息をついた。
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