第49話

「お腹空いた……」

 エリシア邸に帰るなり呟くと、侍女長が溜息交じりに、

「鈴華様をお連れくださると思って準備しておりましたのに……」


 ここでもか……。

 鈴華を口説き損ねたことは皆の誤算らしい。


「今朝、鈴華様からお送りいただいたお料理を温めなおしておりますので、お部屋にてお待ちくださいませ」

「うん!」

 やっと鈴華の作ったご飯だ! そう思うと、自然に疲れが飛ぶ。


 自室に戻ると、呪いを浴びた家具や建材が新しいものに取り換えられた様子にまだ違和感を覚えるが、メリナが手際よく入浴の準備をしてくれて、身体を清めて出てきた時にはテーブルに待ち望んだ料理があった。


 ファムータルが、鈴華の料理でないと食べたくないと駄々をこね、作ってもらって届けてもらうことになっているのだ。

 早く同居したいが、婚約するまで無理だ。


 ちらりと続き間の扉の方を見ると、侍女や使用人たちがすぐに使えるようにしていてくれたようだ。

 そうなると、婚約失敗はますます申し訳ない。


 式典の主催ということでほとんど食べていなかったので、空腹に鈴華の味がますます沁みる。

 気が付けば皿は全て空になっていた。


「殿下。足りませんでしたか?

 私たちが作ったものならございますが……」

「ううん。いいよ。

 ありがとう」


 言って、机に向かってレターセットと万年筆を出す。もちろん、鈴華に礼の手紙を書くためだ。

 料理の感想だけでかなり筆が進む。


 そして、公式なレターセットを出し、今日参列してくれた遺族たちへの礼の手紙を書き始める。


 この時は甘えた雰囲気は微塵もなく、公人としての顔だった。

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