第48話
【この王子が女児を成したなら、王位に据えよ】
それは、ファムータルがエルベット王族として洗礼を受ける際に下りた【封祝言】だった。
通常の祝言なら王子王女のお披露目と共に発表されるが、封祝言となれば話は違う。
知る者は神殿によって許可された者だけで、神殿が決める時まで本人を含め大勢に伏せられる。
その封祝言を知っている者が、ここに二人いた。
ファムータルの祖父にして前エルベット王。
ファムータルの異母兄にして現魔国王太子。
ファムータルは説教をしてエリシア邸に帰したので、二人で大量の書簡を前に頭を抱えていた。
「エルベットに何と報告すればいいか……」
祖父は溜息交じりに書簡を一つ開く。
どの書簡も内容は似たようなものだ。ファムータルの婚約への祝いである。
「振られました……じゃ、通らねぇよなぁ」
ライのヤツは……と、こちらも溜息をつく。
ファムータルには血の保存のためにエルベット王室の娘を――という声も多かったのだが、彼には遺伝病が発現している。
エルベットの王族は近親交配によって多かれ少なかれ、皆がその遺伝子を持っている。ファムータルとエルベット王女を掛け合わせたのでは、遺伝病を発現した子どもが生まれる可能性が高かった。
ゆえに、ファムータルが魔力を全て使うほど惚れ込む娘が出たことに歓喜し、きっと誕生日に婚約すると祝いの書簡があちらこちらから送られてきたのだ。
さらに――
「是非、婚約者となった姫と共にエルベットへのご帰還を……って来てるからなぁ」
先日の暗殺未遂でエルベットもファムータルを喪うことを敏感に恐れ始めた。
危険な魔国から王位継承者を取り戻せと息巻いている。
「今度の聖祭節で帰したら、もうこちらに戻ってこられなくなるかもしれんな……」
「鈴華が一緒に行けば、ますますだな……」
エルベットの冬の終わりから春の初めの、一番神聖な時節とされる聖祭節は、国を挙げての祝いの時期だ。
丁鳩は自分が戻ることは叶わなくとも、どうにかファムータルだけは帰国させていた。
「ま、ライには頑張って口説かせるって返事でもしといてくれ。
それにしても……ライの子か……」
ファムータルも魔国の王族だ。当然呪いを引き継いでいる。
魔力が炎でなく風だといっても生まれる子が呪われていないと誰が言えよう。
「相手が奴隷出身だから、気軽に期待するのやもしれんな」
エルベットも望んでいるのだ。
奴隷出身の少女を【使い棄てて】でも、ファムータルが子を成すことを。
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