ファムータルの章 5,【護る】

第47話

ファムータルの章 5,【護る】



「お前な……なんだありゃ!?」

「殿下! 口説く気ないでしょ!?」

「……断ってくれって言ってるようなもんだったな」

「礼竜……」


 婚約が失敗に終わり、鈴華を丁鳩邸に送り届けた途端、引き離されて会議室に通され――待っていたのは男4人の説教だった。


 4人――すなわち、兄・丁鳩。義兄・サティラート。乳母兄・ライオル。祖父。


「ベリ様とベル様に婚約シーン盗撮ってくるよう言われていたんですが……これ持って帰れとおっしゃいます? 俺、しばかれますよ?」

 言ったのは、茶色く短い髪を編みこんだ青い服の騎士だ。


「イオル、え? 何?」

 ファムータルは状況が分かっていない。


「断っていいって前置いて告白するな! 断ってくれって言ってるようなもんだろ!!」

「サティ義兄様……?」


 背が伸び始めたと言っても、まだ子ども体形なファムータルはあっという間に4人に囲まれて見降ろされる。


 やや間を置いて――

「もしかしてみんな見てたの!?」

 木の枝に梟がいた。

 自然の梟だとばかり思って気に留めなかったのだが……


「あそこにいた鳥は、全部私たちの目だ」

 祖父の言葉に、ファムータルはきょろきょろと周りを見回し、

「酷い! なんで見るんですか!?」


「お前の告白の方が酷い!!」

「ベリ様ベル様にこれ持って帰れって言うんですか?」

「エルベット王室も期待していたんだが……」

「お前、もう一回やり直してこい!!」


 4人の声に、ファムータルは頬を膨らまし、

「盗み見する人なんて知らない!」

 そっぽを向く。


 途端に兄の拳が頭に落ちた。

「なにするんですか……」


「手甲を外しただけ有難いと思え!」

 いつも鎧姿の丁鳩は、外した手甲を付けなおしながら言う。

「いいか! 指輪出して宣言! そして有無を言わさず嵌めろ!!」


「そんな押し付けできません!」

「礼竜……お前なぁ。

 魔力使い切るまでやって助けたんだ。鈴華もお前のこと嫌いじゃないし、ここは押すべきだ」


 兄二人に詰め寄られたじろぐファムータルの肩に祖父が手を置き、

「安心しなさい。礼竜」

「お祖父様!」

「押し倒せば全て終わる」

「……え……?」


 ファムータルは顔を青くし、

「そんなことしたら鈴華が身籠って死んじゃいます!」

 どこかに話の通じそうな人はいないだろうか。助けを求めて見回すと、入り口に侍女が居た。


確か――丁鳩が鈴華につけた侍女のジュディだ。


「お願い、助けて!」

 言って手を取るが、


「いい具合に女性の手を取りましたね。

 じゃあ、そのまま告白の練習しましょうか。殿下」

「お、いいな。ジュディ、よろしく頼む」

「エスコートの仕方、しつけてやってくれ。

 勿論、オレたちも手出し口出しするからな」


「雪鈴、助けて!!」


 誰も気づかなかった。誰よりも歯痒い思いをしている者がいることに。

 鈴華は何も知らされず、部屋に戻ってレースを織っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る