第42話

 部屋の中が慌ただしい。

 廷朽の命で、侍女たちが鈴華のものを隣の続き間に入れているのである。


 どうやら本気で精通させるのが目的だったのか――見事に部屋にはファムータル一人になった。


 邸の主の部屋の続き間は、配偶者の入る部屋である。その事実に赤面する。


「どうなさいました?」

「あ、なんでもない……です。先生」


 今日も医師が来て身体を調べていた。

 場合によっては全部脱がされるので、彼女が居ないほうが気は楽だ。


 医師がファムータルの衣類を整えて去った後、部屋には侍女が二人だけ。彼女はいない。


 ――ずっと待っていた、機会だった。


「あの、……母様のドレスとか……無事?」


 彼女に似合うだろう……そんな姿を浮かべながら、侍女に指示を出した。

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