第28話

 用意した純白の花嫁衣裳を姫に着せ終える頃には、姫の顔は青を通り越して土気色になっていた。


 鼓動も、呼吸も、止まっていく……。


「ですからね、ファム様。

 私はあなたをお呼びしていたのです。


 【運命の女性ファムファタル】と」

 用意した真珠のピアスと指輪で姫を飾る


 そして、先程渡したエルベット・ティーズを姫の周りに飾ると、土気色のその姿を【眼に焼き付ける】。


 それに満足し、次に移る。


「今のファム様のお身体は毒の坩堝……その肉の一片でも口に入れれば、私も死ぬでしょう。

 ですが……結ばれるにはそれしかないのです。


 あなたは忌娘を見初めてしまった……」


 言って、股間の不要物を切って食そうと、大きな鋏を手にしたその時。


 ――視線が突き刺さった。


「…………?」

 見回しても誰も居ない。

 ……否。居た。


 壁の忌女の写絵が、唸る様にこちらを睨めつけている。


「たかが絵ですか……何もできないでしょう。

 そこで見ていてください。


 私が【運命の女性ファムファタル】と結ばれる瞬間を……」


 うっとりとそういったその瞬間。

 魔国の医者を風の刃が裂いた。


 ――な……ぜ……


 魔国の医者は気づかない。

 自分が掠め取っていた姫の魔力を、写絵が操って彼を裂いたのだということに。


 本来なら、ファムータルの魔力を宿したものが近づけば、ファムータルはその魔力を自分の身体に還元させてしまう。


 写絵が、武器にするため、医者の中に留めていたのだ――。

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