第25話
――エリシア邸。
かつて呪王が居た頃に王妃エリシアのために建てられた別棟だが、ここは13年……もうすぐ14年前になるが、エリシアがファムータルを出産した直後、エリシアの遺骸に絶望した呪王が暴走し、そこに居た女官、医師、神官ら全員を焼き殺した悲劇の場でもある。
時を経て――邸の主は彼女の
そのエリシア邸の主の間で――
「お人払いを。
王太子殿下の命令状です」
魔国の医者はファムータルの侍女長に命令書を見せ、その場にいた侍女や兵士を全員追い出す。
当のファムータルは、夜のせいか、横向きに眠っていた。
この王子は、背中の傷が痛むため、仰向けに寝転がることを嫌うのだ。
「……ん……」
ファムータルは目を覚ました。
「何のにおい……?」
「おや、やはり臭いがきつ過ぎましたか」
「……先生……」
未だに寝ぼけているファムータルの姿を【目に焼き付け】ながら、魔国の医者は持って来た大きな荷物からエルベット・ティーズの大きな花束を渡す。
「え、ティーズ!?」
一気に目が覚めたファムータルは、
「駄目だよ、先生! お墓のティーズ摘んじゃ!」
「ご安心ください。お墓のものではありません。
それは私が温冷室栽培で育てたものです」
「あ、……そうだね。魔力感じないや」
墓地のエルベット・ティーズは前国王の魔力で咲いている。医師が持って来たエルベット・ティーズは自然な花だった。
「ごめんね、先生。
これ、僕に見せる為に持ってきてくれたの?」
「はい、ファム様。
プレゼントです」
「いいの? ありがとう!
……メリナ……あれ、みんなは?」
見回して、誰も居ないことに疑問を持った王子に、医者はにこにこと、
「これのために人払いさせていただきました」
言って、小さな酒瓶を出す。
「すごいにおい……何それ?」
「魔酒でございます。
王太子殿下から、ファム様の魔力を手っ取り早く回復させるよう言われ、取り寄せておりました。
ファム様はまだお酒は飲めませんが、ここは例外ということで」
「それで魔力が回復するの?」
「ファム様の魔力は王族でも群を抜いて大きいので、これでも回復は僅かでしょう。
ですが、僅かに戻った魔力が呼び水になって魔力はだんだんと回復するはずです」
魔国の医者が笑顔で言うと、ファムータルは無邪気に笑い、
「そんないいものがあったんだ……兄様も教えてくれればいいのに」
「手に入るか分からなかったので、がっかりさせてはいけないと思われたのでしょう。
必死に手配してやっと手に入ったのがこれ一本です」
「先生、頑張ってくれたんだね。ありがとう」
「お安い御用です」
医者は一礼し、持って来たテーブルに区切りのある皿を置き、そこに色とりどりの可愛らしい菓子を置き始める。
「可愛いね。これは?」
「酔い覚ましでございます。
魔酒はとても強いのです。お酒が初めてのファム様にはこの小瓶ひとつもお辛いでしょう。
ですから、苦しくなったらこちらで酔いをお覚ましください」
「先生が作ってくれたの?」
「はい、滅多に作りませんので、お恥ずかしい出来ですが」
「とても美味しそうだよ! ね、先生、今度一緒にお菓子作ろう?」
言いながら、ファムータルは端から順に一つずつ口に入れ――
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