第24話
「聞いたか?
ライの奴、がっついて全部平らげたってよ」
封筒を――今回は中に色々と入っているようだ――鈴華に渡しながら、丁鳩が言う。
「あいつの食の細さは、俺たちもお手上げだったんだがなぁ……。
ライの侍女長も毎食作って欲しいって言ってきたんだけどよ……謹慎中でそこまで優遇するわけにはいかねぇからな。
悪りいが、時々だけで頼む。
……で、封筒に何か入ってるからちょっと検閲していいか?」
「あ、はい。お義兄様」
忙しい丁鳩がわざわざ手紙を持って来たのはそういうことかと納得する。
「お義兄様って、自然に出るようになったな。よしよし」
鈴華の頭を撫で、手紙の封を切る。
「エリシア義母様の形見だな……」
丁鳩は手紙に目を通し、
「よし、問題ねぇ。悪かったな」
「いえ、仕方ないです」
受け取り、手紙を読む。
同封されていたのは、ネックレスと封蝋印だった。
【お返し……って言ったらなんだけど、僕からお礼。
兄様の封蝋印借りてるみたいだから、これ使って欲しくて。
ネックレスはお守り。きっと君を守ってくれるよ。
母様にお願いしたんだ】
封蝋印は、ファムータルのものと同じに見える。
「その封蝋印がライのヤツのオリジナルだ。
もともとエリシア義母様のものを引き継いだからな。
そっちのネックレス、光に透かしてみろよ」
ネックレスは古風な飾りつけに、中心に淡い黄の石が嵌っている。それを光に翳すと、七色の煌めきとエルベット・ティーズの紋が見えた。
「王族が御名をもらった時に神殿から授けられる守護石だよ。
御名を棄てたエリシア義母様がまだ持ってたとは知らなかったな」
「そんなに大事なものを? いいのですか?」
ファムータルを礼竜やライと呼ぶのが前国王や丁鳩のみと言うことからも見て取れる、大事な名だ。
「実はそれはな……エリシアが置いていったものを、私がこっそり遺品に混ぜた。
礼竜には秘密にしてくれ」
咳払いをしながら前国王は罰が悪そうに言う。
もともとエリシア邸に住んでいる前国王だが、エリシア邸にいると孫が気になって仕方ないので一時的に丁鳩邸に住んでいる。
未来の孫娘の話し相手や相談役に徹しているが、まんざらでもなさそうだ。
「あの、こんな大事なもの……」
「いいっていいって。ライのヤツがもらってくれって言ってんだから。
付け方は……分からねぇよな」
留め具を見れば何やら複雑で、知恵の輪のようだ。
「滅多に外さねぇもんだし、外れにくくできてるからな……。
ちょっといいか?」
丁鳩はネックレスを受け取ると、鈴華の前から首の後ろに手を回して着けてやる。
――丁鳩の手が震えたのは言うまでもない。必死に隠したが。
「よし、外したいときは義祖父様に言ってくれ。
じゃ、俺は戻るから。
あ、鈴華。
ボビンは夕方にでも届くってよ」
奴隷市壊滅作戦は丁鳩が2年間の前準備をして成し遂げたものだ。
勿論、事後処理も量が半端ではない。
「あ、ありがとうございます。お義兄様」
後ろ手に手を振ると忙しそうに言ってしまう丁鳩。
「ボビンが来る前にお返事書かないと……お料理はまだ駄目ですよね?」
「あまり喜ばせては、謹慎の意味がないからな。
礼竜が食べてくれるのはありがたいのだが……」
前国王に悩まし気に言われ、返事は手紙のみとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます